2016年のマイベスト「リップヴァンウィンクルの花嫁」と「シング・ストリート未来へのうた」

キネマ旬報の昨年度の映画ベストテンがそろそろ発表される頃だ。
昨年は邦画が秀作揃いの嬉しい年だった。洋画邦画合わせて昨年劇場で私が見たのが120本ほど(他にDVDが90本)だが、公開される映画が1000本(!)もあると言う時代、見たくてもどうしても時間が取れず見れないものが沢山出てくる。題名も知らず通り過ぎる映画も多い。ひたすら「映画はご縁のもの」ということばが実感される。
また言うまでもなく映画との相性があって全てが面白いわけではない。いい出会いを求めて今年もさすらっていくしかない。

「リップヴァンウィンクルの花嫁」監督:岩井俊二 出演:黒木華 綾野剛ほか

監督:岩井俊二 出演:黒木華 綾野剛ほか

さて、今回は昨年の邦画・洋画マイベストを紹介したい。
まず邦画は「リップヴァンウィンクルの花嫁」という3時間の長編作品。
七海と言う名の若い女性がネットで知り合って結婚するも、旦那と義母に不倫を誤解されて離婚する羽目になる。その後、この東京でいろんな人と巡りあい、東京をさすらっていくという話だが、まずこの話の面白さに魅了された。よくもこんな現代的で(話にSNSが絡んでくるのもいい)、今の時代を呼吸するストーリーを紡げたものだと感心した。脚本も監督も岩井俊二だ。自然で柔らかい映像もよかった。

特筆すべきはヒロインの黒木華。昭和の雰囲気を持った女性を演じたら彼女の右に出る女優はない。彼女がふわふわっと、しかもなんとか懸命に生きていくのがよい。応援したくなる。彼女は国語の派遣非常勤講師だ。生活するために家でスカイプを使って、引きこもりの中学生の女の子に数学を教えるシーンもとても好きだ。
それから彼女に絡む綾野剛も素晴らしい。これまで邦画になかった痛快なキャラだ。チャラく、金にがめつい悪漢だが純情さも持ち合わせる。ラスト近く、日本家屋の狭い部屋で全裸になって酒を呑みながら亡くなった女性を追悼するシーンは心底驚いた(その女性の母親役が先日急死した歌手のりりィだ。合掌)。
私がベストに推すのは毎年キネ旬では大概11位くらいになる。これもそうだろうか、ともかく一番好きな作品だ。

「シング・ストリート未来へのうた」監督:ジョン・カーニー 出演:フェルディア・ウォルシュ=ピーロ ルーシー・ボイントン ジャック・レイナー

監督:ジョン・カーニー 出演:フェルディア・ウォルシュ=ピーロ ルーシー・ボイントン ジャック・レイナー

次に洋画は「シング・ストリート 未来へのうた」だ。30年前のダブリンでバンドを結成して演奏を始める少年の話だ。登場人物にみんな影があり、いろんな悩みを持って生きているのがいい。昔の、しかも遠いダブリンの話なのに、今の自分の心情にフィットした。

自らも音楽好きだったが諦めて希望を弟に託す引きこもりの長髪の兄のキャラがとても魅力的だった。髪をすっきり切った兄が会場に現れ、意地悪校長がなぜかバック転を繰り返して会を盛り上げるという、サイコーに可笑しくて切ない、空想の中のバンドコンサートシーンは忘れがたい。

ラストもいい。小船に乗って海を渡り広い世界へ出て行こうとするのだ。若者は眩しい、青春をまっすぐに進んでほしいと願った。

☆     ☆     ☆     ☆

「アルジェの戦い」監督: ジッロ・ポンテコルヴォ 出演:ブラヒム・ハジャグ ヤセフ・サーディ ジャン・マルタン

監督: ジッロ・ポンテコルヴォ 出演:ブラヒム・ハジャグ ヤセフ・サーディ ジャン・マルタン

さて好きな映画をもう一本。
新作ではないが50年ぶりにリバイバル上映された「アルジェの戦い」には誇張でなく圧倒された。130年もフランスに支配されたアルジェリアが独立を目指しレジスタンス運動を起こし、それをフランス側が抑圧しようとする。6万の市民エキストラを使ってドキュメンタリーのように映像を作っている。

復讐のためにイスラム教徒の女性が、フランス人居住区に時限爆弾を仕掛けていくシーンの息詰まる緊迫感と言ったらない。画面にアラブの土俗的な太鼓の音楽が強烈に鳴り響いて映画の効果をあげる(今でも耳から離れないほどだ)。
そしてこの爆弾による無差別テロが今でもヨーロッパで無慈悲にも続いていることに慄然とする。

日本で公開された1967年には、「わが命つきるとも」「気狂いピエロ」など錚々たる作品を抑えてキネ旬のベストワンになっている。