新鋭松居大悟監督の「君が君で君だ」と「アイスと雨音」

8月下旬開催の第43回湯布院映画祭で上映され、観客から絶賛と否定の大きな声が上がり、監督を交えてのシンポジウムが一番盛り上がったのは新鋭松居大悟監督「アイスと雨音」であった。

正直に言うと私も7月までこの監督の存在を知らなかった。松居大悟監督は12年にデビューし16年の「アズミハルコは行方不明」まで6本の映画を撮っている。
監督の「アイスと雨音」が上映されることを知った直後に、もうひとつの新作「君が君で君だ」が上映されたので、まず、これを見た(「アイス」の方は、実は東京では既に3月に上映)。

今回は、まず「君が君で君だ」から紹介したい。32歳の監督の作品に、カンレキを過ぎたオヤジの感性が上手くフィットするのか危惧したが、何と、フィットどころか今年のマイベストワンにしたい位の大傑作だったのだ。

映画「君が君で君だ」監督:松居大悟 出演:池松壮亮 キム・コッピ 満島真之介 大倉孝二ほか

監督:松居大悟 出演:池松壮亮 キム・コッピ 満島真之介 大倉孝二ほか

映画が始まり、こりゃ何だ、と思わされる。最初何をやっているか把握できない。手持ちカメラの逆光の中、何やら3人がごちゃごちゃした部屋で一喜一憂している。チョンマゲ男もいるし、足に繋がれた鎖も見える。
段々と分かってくる。向かい側の別のアパートの女の子に「ストーカー」的な覗き、音声盗み聞きをやっているのだ。これは一人の韓国人女の子に対する、異様ともいえる男3人の「愛」の行為なのだ。
今が旬の池松壮亮、満島真之介、大倉孝二が、それぞれ尾崎豊、ブラッドピット、坂本竜馬になって、「国」を作って彼女を守っているらしい(後で冷静に考えるとよく分からないのだが、映画としての勢いがあるので特に気にならない)。

この3人に借金取り立ての姐さんとヤクザの若い男が絡む。この2人、YOUと向井理の演技が素晴らしい。特に向井は新境地を見せている。一皮むけたと思う。いつもは好青年を演じるのが多かったと思うが、今度は凄みがあるのだ。
片思いの対象である、韓国から来ている女の子のキム・コッピ(「息もできない」)がいい。丸い顔で、表情がいろいろと豊かに変わる。映画の中の3人ならずとも守ってあげたくなる。

時制は奔放であり、突然ミュージカルシーンが出てきたり自由に作ってあるが、この映画が描かんとしているテーマは、かつて恋をした人、今、恋をしている人(また、これから恋をしようとする人)なら分かるだろう。
YOUが3人の男たちの行為を見て呆れながらも、向井にこう言う、「あんたここまで愛されたことある?」。
そう、クレイジーな位の愛なのだ。しかし、ここまでやって、初めて「愛」なのだ。そもそも、「愛」はクレイジーではないか。そんな思いが浮かぶ映画だ。

映画「アイスと雨音」監督:松居大悟 出演:森田想 田中怜子 田中偉登ほか

監督:松居大悟 出演:森田想 田中怜子 田中偉登ほか【amazonで見る】

さて、次は「アイスと雨音」。これはわずか74分の中編で、何と全シーンがワンカットで撮られた意欲作。
芝居の演出もやっている松居監督の実体験に基づくが、下北沢の小さな劇場で芝居を上演しようとして、出演者とスタッフが集まり芝居の稽古が始まる。ところが、劇場側からチケットの売れ行きが悪いという理由で上演の中止が告げられる。役者たちは戸惑い、憤る。そしてある行動を取ってゆく。
この映画は、その現実の事態の進行と劇中劇の両方を繋げて撮ってゆく。そこがとてもユニークなところだ。
巧みに、MOROHAという坊主頭のミュージシャンがソウルフルな心に迫るラップを独唱するシーンが挟み込まれる。これにはノックアウトされる。

さて、冒頭に書いたように、この映画には映画祭のシンポで絶賛と否定が相次いだ。片や、近松門左衛門の「虚実皮膜」を行っていると述べる観客もいれば、カットを割って群像劇にした方がよかった、「劇中劇」がよく見えてこない、などの否定も出た。
私はと言えば、残念ながら否定派である。期待が大きかっただけに「ワースト」にしたい気持ちにもなった。同じ監督の同じ年の公開なのに「ベストワン」と「ワーストワン」になってしまいそうだ。長い映画ファン生活の中で初めてのことだ。しかし、その揺れ幅の大きさこそが松居大悟監督の大器の証明だと思う。

(by 新村豊三)

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