老化と介護と神経科学12 ブックレビュー『毒親介護』石川結貴

『毒親介護』石川結貴 文春新書

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『毒親介護』(石川結貴・著 文春新書)

「毒親」というのだから、穏やかではない。強烈なタイトルである。これは、センセーショナルな言葉を並べて興味を惹きつけるという、新書にありがちな販売戦術だろうか。いや、そうではないようだ。
「毒親」というのは、十数年前にスーザン・フォワードという人が著書の中で使ってから広まってきた言葉だそうで、一言で言えば、子供に対して慢性的に悪影響を与え、傷つける親のことである。本文を引用してみる。

『「鬼のような親」、「支配的な親」、「自己中心的な親」などの相性が毒親と言えるが、この言葉が一般化するにつれ、より広い解釈がされるようになった。特に母親との関係に悩む女性にとっての「毒母」は、直接的な暴力や暴言とは無関係のことが多い。むしろ我が子を溺愛し、過保護な子育てをするのだが、それがかえって子供の人生を苦しめるとの実態も報告されてきた。』

そのような毒親でも、いつかは歳を取る。そして、長年傷つけられてきた子が、その親の介護を担うことになる。本書は、そのような事例や、関係する様々な専門家の意見を紹介し、最後に非常に具体的な提言をしている。ただし、この本の中の提言は、そのような極端な「毒親」を持つ人たちだけに向けられたものではない。老人の介護にあたるすべての人に役立つものである。

1章から3章までは主に事例の紹介である。専門家のコメントや統計データも多少は紹介しているが、ほとんどは、「毒親」を介護する立場の子供達へのインタビューである。
内容は凄まじい。「毒親」たちの過去の仕打ち、老いて介護を必要とするようになった現在の振る舞い、介護者と他の家族との関係、どこをとっても救いようがない。
抑えた文体で努めて冷静に客観的に記述しているのだが、それがますます事例の悲惨さを際立たせている。この部分を読めば、「毒親」という言葉が、決して宣伝のためのはったりでないことがわかる。

4章も事例報告だが、ここでは、介護する子だけでなく、介護される「毒親」のインタビューも載せている。さらには、様々な専門家の意見を引用しながら、筆者自身がかなり突っ込んだ解説を試みている。

5章、6章ではいよいよ、「では、どうしたらいいのか?」という点に話が移る。
関連する著作の引用、多数の専門家へのインタビューにもとづき、親の介護で問題を抱える人に向けた、具体的なアドバイスをしている。その内容は、決して「毒親」の介護にあたっている人だけのためのものではない。老人の介護、特に認知症者の介護に当たっている人なら、誰しもぶつかるさまざまな問題について、その理解の仕方、対応の仕方をわかりやすく解説している。
1〜4章の事例が辛すぎて読めない、という人は、5章から読み始めても良い。十分元は取れる。

そして、「おわりに」。普通、「おわりに」とか「あとがき」というのは、執筆にあたって協力してくれた人たちに対する感謝とか、取材中のちょっとしたエピソードとかを書くものである。読まなくても良い部分であるし、読まない人も多いのではないだろうか。
しかし、本書の「おわりに」は、そうではない。”must read”なのである。この部分だけ取り出して、真面目に書けば、十分一冊の本になる内容である。

と、いうわけで、「うちの親は毒親かもしれない」と思っている人には是非お勧めの本であるし、そうでなくて、普通の親の介護をしている人、「そのうち介護のことも考えないとなあ」と思っている人にもお勧めである。くれぐれも、「おわりに」を読むのをお忘れなく。

(by みやち)

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