【 魔談548 】モンマルトルの画家たち(49)

【 ジョーンズ 】

次々にメリーゴーランドの台に登り、回転木馬に乗り、ゆったりとした回転と陽気な音楽を心ゆくまで楽しむ人々。
私はチーズバーガーをかじりホットワインをすすりながら、飽きることなくその様子を眺め続けた。お客は(当然ながら)子どもがほとんどだったが、思わず注目してしまった客がいた。今回は彼のことを書いておこうと思う。

✻ ✻ ✻

その客は初老に近い黒人だった。彼が客の列に並んだとき、私は一見して「ジョーンズだ!」と思った。
ジェームズ・アール・ジョーンズ(1931 – 2024)。アメリカの黒人俳優である。
映画「フィールド・オブ・ドリームス」(1989年/アメリカ)は御存知だろうか。少々の余談をどうかお許し願いたい。この映画のタイトルを語った以上、(なにしろ大好きな映画なので)少しだけでも内容を語らずにはおれない。
(1)広大なトウモロコシ畑を営む主人公(ケビン・コスナー)は畑の真ん中で奇妙な「ささやき声」を何度も聞いて、ノイローゼに近い状態となる。
(2)彼はその声の意味を次第に悟り、(なんと)トウモロコシ畑の真ん中に野球場をつくる。
(3)完成した野球場にかつて有名だった野球選手たち(亡霊)が続々と集まってきた。

このような冒頭の映画なのだ。「よくこんなけったいな物語で映画をつくろうなんて気になったものだ」と思ってしまうような映画なのだが、そこが映画という仕掛けの面白いところで、もちろんドタバタではない。ドタバタどころかじわっと涙を誘うような素敵なシーンもある。

さて本題。私はこの映画に登場するジェームズ・アール・ジョーンズが好きで、イラスト(写真)も制作している。その黒人俳優とそっくりだったので、ここでは彼をジョーンズと呼ぶことにしたい。

ジョーンズがにこやかな笑顔で客の列に加わったとき、私はほとんど無意識で(彼が連れてきたであろう)子どもの姿を探していた。きっと孫でも連れてきたのだろうと思ったのだ。どんな孫なのか見たいと思ったのだ。「ちびっこギャング」(1960年代にテレビ放送された人気番組)に登場の黒人少女のように三つ編みがかわいい子だったらいいな、などと想像していたのだ。

ところがいくら探してもジョーンズの周囲に子どもの姿がない。彼もまた「自分が連れてきた子どもを探している様子」など全然ない。白い歯を見せて(黒人が笑うと白い歯がくっきりと見える)周囲の白人の子どもたちにニコニコと笑顔を見せているだけだ。
「はて?」と不思議に思っている間に回転は終了した。木馬から降りた客たちは満足した様子でぞろぞろと階段を降りてきた。

さて並んでいた客たちの番である。どこからか黒人少女が飛び出して来ないか。そんな光景を期待してジョーンズに注目していたのだが、一向にそんな様子はない。ジョーンズの前に並んでいた客たちは一斉にメリーゴーランドに登り、木馬に乗った。ジョーンズもメリーゴーランドに登った。ひとりの少年が木馬にしがみつくようにして乗ろうとしていたのだが、その少年をひょいと持ち上げて木馬に乗せてやった。
「あ、そっか。スタッフか」と私は納得した。

そうではなかった。周囲を見て子どもたちが木馬にまたがっている様子を見ると、彼もまた空いている白馬を選んでまたがった。
「スタッフも乗るのか? まさか」
私の勝手な混乱などどこふく風。ジリリンとベルの音が響き、休止していた音楽が復活し、木馬たちは一斉に回転し始めた。子どもたちは一斉に歓声をあげ、周囲で見守る大人たちに向かって手を振った。その中にジョーンズもいた。彼もまた少年のように白い歯を見せて手を振っていた。誰に向かって手を振っているのだろうと思い、改めてメリーゴーランド周囲の客たちを見ていったのだが、黒人は誰もいない。念のため少し歩き、メリーゴーランドの反対側にも行ってみた。しかし黒人は誰もいなかった。

誤解をさわやかに恥じた、といった心境だった。
ジョーンズはひとりでメリーゴーランドに来たのだ。自分のために回転木馬に乗ったのだ。
素敵な笑顔だった。私は大きく手を振った。彼はそれに気がついた。人差し指で私を指した。その自然な仕草は「やあ、来ていたのかい!」とでもいおうか、そんな仕草だった。

【 つづく 】


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