魔の絵本(7)エドワード・ゴーリー著「優雅に叱責する自転車」

<この投稿は暴風雨サロン参加企画です。ホテル暴風雨の他のお部屋でも「優雅に叱責する自転車」 に関する投稿が随時アップされていきます。サロン特設ページへ>


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受講生と飲みに行く、という行為はカルチャースクール的には禁止されている。これにつき「学校から外に出た勤務時間外行動で、なんでそこまで禁止されなきゃならんのだ!」と怒る講師もいる。まあそっちの方が正論だろうとは筆者も思うのだが、禁止してしまいたい学校サイドの気持ちもわからんではない。たぶんそうした席で酔ったあげく、醜態をさらしたアホな講師がいたのだろう。なので「当校ではそうした行為は禁止しております。したがってそこまで責任は持てません」と釈明するための布石と考えることもできる。

筆者はどうなのか。筆者は講義終了後、いつも決まった店で飲んでいる。「来たいヤツは勝手に来たらよかろう」という態度である。たまたま店でハチあわせになった状況まで責められることはなかろう、という腹である。禁止行為を破ったわけではない。遅れて店に入ってきた受講生たちもそこは心得ている。筆者は6人ほど着席できるボックス席で飲んでいるのだが、なにか話したいことや相談したいことがある受講生は、そのボックス席に来る。クラスメイトだけで飲みたい受講生たちは別のボックス席に行く。

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その夜も、筆者は例によってキリンラガーと突き出しで一杯やり始めていたが、ふと入口を見ると、店にダッと入って来て店内を見回している客がいる。むせそうになった。やれやれアイツか。そう思う間もなく発見されてしまい、まっすぐにこっちに向かってきた。一瞬逃げ出したい衝動にかられて1センチほど尻を浮かせてしまったが、そうもいかない。あきらめて尻を戻したときにはもう、真正面に座った。「かんべんしろよ」気分。他のおっちゃん客たちが赤い顔で一斉に注目している。「他の受講生たちは?」と思ったときに、遅れてドヤドヤと入ってきた。ほっとすると同時にあらためて真正面の客を見ると、軽く息をはずませている。どうやらクラスメイトたちをほっておいてひとりで走ってきたらしい。……やれやれ。

聞きたいことはわかっている。感想を聞きたいのだ。あの絵本につきどう思ったのか、聞きたくてしかたがないのだろう。目がキラキラと輝いている。よほど好きな絵本なのだろう。なにか言い出しかけたが、右手を上げて軽く制した。
「……まあちょっと落ち着いたら?」
彼女がメニューを見ているあいだにぼくは手を挙げて、クラスメイトたちに知らせた。できればお相手はこの娘だけではなく、他の受講生もこのボックスに着席していただきたい。こんなボックス席でゴスロリとサシで飲むなんて本当に「かんべんしろよ」だ。メイド喫茶じゃあるまいし。

彼女がオーダーしたのはカルーアミルクだった。カルーアミルク!……この居酒屋のコンセプトは「ちょっと前時代の和風」じゃないのか。カルーアミルク!……ま、それはともかく他のクラスメイトたちはチラッと我々を見て、みな別のボックス席に行きやがった。なんてこった。貴様ら人間の洞察力が足らんぞ。わざわざ手を上げてキミたちを呼んだ講師の気持ちがわからんのか。そんなんでデザイナーになれると思っておるのか。

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「ナンセンス絵本だからね」と講師は言った。
……なので意味を深く考えたり、仕掛けをあれこれ探してみたり、そういうのがすでにナンセンスであるように思う。彼女はしきりにうなづいている。……この絵本世界では、プロローグですでに「火曜日の翌日で、水曜日の前日」なんて言ってる。つまり「なんでもアリのナンセンス世界で起こったお話なんですよー。だから真面目に読まないでね」と言ってる。それを楽しめばそれでいいんじゃないかな。ただ「いかにも仕掛け」みたいな要素もあるので、そういうのを探したい人は存分に探せばよろしい。作者は叱責しない。そんなところもある。

「表紙はどう思います?」
ああそこを突いてきたか。これは正直、ちょっと困った。じつは筆者もこの不可解な表紙についてはあれこれ考えているのだが、まだ結論めいたものが出てこない。表紙ではワニが逆さになって自転車に乗っているのだが、そんなシーンは本文のどこにもない。本文ではワニは登場した次のページで鼻先を蹴飛ばされてさっさと死んでいる。ただそれだけの、いったいなんのための登場なのかさえよくわからないワニが表紙に登場して、逆さになって自転車に乗っているいる。もうさっぱりわからん、としか言いようがない。

……(すいません。今回で終りのつもりが、終わりませんでした。次回こそ最終回)

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