歌舞伎の世界を描く傑作「国宝」、米映画界の「宝」トム・クルーズの新作「ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング」

「国宝」の公開が始まった。期待以上に面白く、日本映画近年の最高傑作ではないかと思う。必ずや「令和の名作」となるだろう。

『国宝』監督:李相日 出演:吉沢亮 横浜流星 渡辺謙ほか

『国宝』監督:李相日 出演:吉沢亮 横浜流星 渡辺謙ほか

1960年代、長崎の極道の家に生まれた主人公喜久雄(吉沢亮)が、ある事情で、大阪の上方歌舞伎役者の家に引き取られ、歌舞伎の世界に入り厳しい修業を受けていく。その師匠には喜久雄と同い年の息子俊介(横浜流星)がいて、二人切磋琢磨する。二人が、運命的に、栄光と転落を繰り返しつつ、跡を継ぎ、芸道を極めていく骨太のドラマがまず面白い。

加えて、劇中で演じられる歌舞伎の有名な演目、「二人道成寺」「曽根崎心中」などが堂々と、華やかに、艶やかに演じられるのも素晴らしい。私のように特別の歌舞伎ファンでなくても引き込まれる。歌舞伎の所作指導は四代目中村鴈治郎。

そして、これも特筆、演技陣が全ていい。主役の吉沢亮、ライバルの横浜流星は言わずもがな(共に、NHK大河ドラマの主役)。吉沢亮の、「曽根崎心中」の稽古をするシーン、この本番のシーン、これぞ入魂と言うべき演技だ。脇役では、師匠を演じる渡辺謙が素晴らしい。(実は、この役者、「臭み」があり、あまり好きではなかったが、これには脱帽)。長崎の極道の組長を演じる永瀬正敏が出番は少ないものの、会心の演技。三浦貴大も、喜久雄を支える興行主として存在感を示す。

撮影や演出にも目を瞠る。ロケ、あるいはセットを活用し、歌舞伎の演芸場を見事に見せる。稽古の様子もいい。リアリティがある。また、1960年代の街並、風俗など、時代を見事に再現した。撮影は何とフランス人ソファニ・エル・ファニ。2013年に傑作「アデル、ブルーは熱い色」を撮影した。
カメラが時折、主人公に肉薄する。歌舞伎の女形を演じる人物の顔の表情をアップで捉える。歌舞伎を遠景でカメラに収めつつ、人物の表情をクロースアップで捉えるのは映画にしか出来ない技法である。

監督は李相日(リ・サンイル)。在日で、横浜映画学校(今の、日本映画大学)の出身。51歳。既に、「フラガール」(2006)「悪人」(2010)でキネ旬のベストテンを2回獲得した。今回、若くして巨匠のような風格をもった映画を撮った。

映画のテーマの一つは、芸道における、血筋の問題。芸のために実力を重視するか、それとも、自分の子供を尊重するかという事だ。そこが映画の中に見事に描かれている。また、芸人の名声への妄執も描かれる。これもいいのである。
伝統芸能を見事に本格的にリアルに描きつつ、まことに劇的なストーリーが展開するドラマとして一見を強くお勧めしたい。いや、もう既に、情報は口コミで伝わったか、映画館は平日でも多数の観客でヒットしているのである。

監督:クリストファー・マッカリー 出演:トム・クルーズ サイモン・ペッグ ビング・レイムス他

監督:クリストファー・マッカリー 出演:トム・クルーズ サイモン・ペッグ ビング・レイムス他

好きな映画をもう一本! 「宝」でこじつけて申し訳ないが、トム・クルーズはアメリカ映画界の「宝」だ。いや、アメリカのみならず、ヒーローが体を張って大活躍する「活動映画」                                           ファンの「宝」と言っても過言ではないだろう。

今度の「ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング」は2年前の「デッドレコニングPART ONE」の続編である。前作を見ているが、話を忘れていたので、実は何をやっているのかよく分からない(笑)。また、前半は、暗い画面で内閉的シーンが多く爽快感がない。ともかく、まあ、「それ」と訳されているentity(英語の意味は「存在」)が、暴走して、世界で核戦争を引き起こしそうになっている。それをアメリカのスパイ組織が阻止しようとして、イーサン・ホーク(トム・クルーズ)とその仲間たちが、懸命の働きをしている。
それで十分だろう。この映画、トムが極寒の海の中に飛び込み、海中に沈んだ潜水艦で調査を続けるシーンから俄然面白くなる。トムが、必死で息苦しさに耐えながら浮上しようとするところも、もう痛々しい位で、感情移入した。

それからは、映画の中に没入。女性大統領の核攻撃の葛藤、チームの仲間が核弾頭を外そうとする、とかいろんなものが描かれる。しかし、何と言っても、圧巻は、トムが古い飛行機に乗って、前を飛ぶ飛行機を追っかけ、操縦席に乗り込み、操縦士と格闘するシークエンス。文章では、表現インポッシブル。還暦過ぎたトムがよくぞあそこ迄と思う。ほとんど感動的だ。
ラストも、ロンドンのトラファルガー広場で、仲間が再会し、そして一言も口をきかず、また別れていく。ニクイ。

(by 新村豊三)

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