深い感銘を受けた映画2本「Riceboy ライスボーイ」(カナダ)「そして彼女たちは」(ベルギー)

4月に見て深々とした感銘を受けた映画を2本紹介したい。2本とも主人公は子供を持つ女性であり、繊細でリアルな映画だ。

「Riceboy ライスボーイ」監督:アンソニー・シム 出演:チェ・スンユン イーサン・ファン他

「Riceboy ライスボーイ」監督:アンソニー・シム 出演:チェ・スンユン イーサン・ファン他

まず、「RICEBOY ライスボーイ」。韓国系カナダ移民のシングルマザーの母と息子の話である。韓国のことはかなり理解していると思っていたが、カナダ移民のひとつの現実を知ったのは初めてである。
1990年(1988年のオリンピックの後)、夫を亡くした若い韓国人の女性ソヨンが移民先のカナダの工場で、シングルマザーとして働き始める。1人息子ドンヒョンは、小学校でからかわれイジメられる。海苔巻きやキムチがクサい、「ライスボーイだ」と言われたりする。ソヨンは学校に怒鳴り込むも、学校はイジメた側の指導はしない。母親1人で闘っていく。そんな現実だ。

時が流れる。ドンヒョンはもう、普通の高1の男の子に育っている。しかし、母親からは父親のことを話してもらえず、自分の先祖を辿れない空虚感やコンプレックスを持っている。
ソヨンにある重大な出来事が起きる。彼女は、決意して、息子を祖国へ連れて行く。韓国に渡ってからが素晴らしい! 美しい祖国。寒村だが美しい村。その映像がいい。プライベートフイルムのような質感がとてもいい。

田舎の農家の平屋の家を訪ねる。そこには夫の両親や弟が暮らしているのである。義父は、ソヨンに対し、「あんたに悪かったな」と言ってくれる。段々、夫の死の事情が分かってくる。
祖父、叔父、母子が一緒の食事をとる。白いご飯が美味しい。その時、子供の頃のからかいの言葉「ライスボーイ」の意味が、「誇り」に変わるのだ。
父親の遺品を見る。軍服もある。きっとベトナムあるいは兵役で苦しんだのだろう。叔父のトラクターに母子が乗っていくシーンもとてもいい。叔父とドンヒョンは、ともに銭湯に行き、お互いの体を洗いあって交流を深める。

母と子は、山を登り、父親の墓に詣でる。その時、ソヨンは初めて、大きな声で叫ぶ。これまでの鬱屈を解き放ちたいのだろうし、息子が祖国を理解した歓びだろうし、自分の運命を悲しむ気持ちだろう。万感、胸迫る情感がある。
脚本監督は、自身、移民してカナダで育ったアンソニー・シムである。

「そして彼女たちは」監督:ダルデンヌ兄弟 出演:バベット・ベルベーク エルサ・ウーベン ジャナイナ・アロワ・フォカン他

「そして彼女たちは」監督:ダルデンヌ兄弟 出演:バベット・ベルベーク エルサ・ウーベン ジャナイナ・アロワ・フォカン他

好きな映画をもう一本! 次はベルギー映画「そして彼女たちは」。英語題は「Young Mothers」。まさに英語タイトル通りの映画。凄い映画である。何が凄いか。描かれる内容と映画の質の高さだ。

舞台はベルギーの首都ブリュッセル。赤ちゃんを出産したばかりだが、親たち周囲の協力が得られず、しばらく面倒を見て自立させる施設にいる年端の行かぬ5人の女の子の話。
5人別々に話が進行し、どれがどの子の話なのかちょっと戸惑うし、あまりに現実が悲惨というか過酷なので、見るのがシンドく感じられるが、段々状況が分かって来てからの後半は大変に惹きつけられる。他人事と思えない。

ドキュメント的で手持ちカメラの長回しが続く。女の子たちは見ていて、もう、息がつまる。女の子たちが必死。演技とは思えない程のリアルな存在感がある。出て来る母親たちが一人を除き、もう幼く痛々しく、家族にも恵まれていない。
関わってくる家族が、またまたリアル。例えば、孫は私が育てると言い張る(そのくせアルコール依存)中年の女性がいる。一見、知的でいい人みたいだが、すぐに娘に手を出してしまう!すぐに謝るのだけど、止められない。
ただ、それでも希望があるのがいい。ラストの、ピアノが弾かれるシーンも希望を感じさせる。ここは、素晴らしく鮮やかな余韻を残す終わり方をする。

監督はダルデンヌ兄弟。移民の姉弟の苦難を描いた前作「トリとロキタ」も秀作だった(2023/5/30の回で紹介)。問題を訴え、なんとか状況を変えていこうと考える作り手がいる。それを知るだけで、見る側に「力」が生まれるような気がする。
突然だが、男っていい加減、卑劣。セイシをぶちまけて、子供が生まれたら、オレ知らねえだもんな。女はツラい立場に置かれている。男たち(オレもそうだが)、反省しろ!男中心の社会のシステムみを改善しろ!
こうも思った。もう、これから、軽々しく「夢」を描く映画は必要ない。この21世紀に必要なのは、暗くてもいい、この映画のように現実への「洞察」と「力」を与えてくれる映画だ、と。(と言いつつ、冷静になると、やはり、息抜きの軽く愉しい映画も必要でーす)

(by 新村豊三)

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