「魔談」まえがき

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 我々日本人が日常的に使っている漢字。「もっとも身近な」と言われるJIS第1水準の漢字だけでも、2965文字あります。2965……なかなか大変な数です。仮に100円玉を毎日1個、貯金箱に貯めていくとしましょう。2965個の100円玉を貯めるには2965日必要です。つまり8年と45日間かかるという計算になります。
「コイツは魔談の冒頭でいったいなんの説明をしておるのか。漢字の数なんかどうでもいい。さっさと魔の話をせんか」などと思わないでいただきたい。「魔談」などという、なにやらいかがわしいタイトルを掲げて書いているような筆者です。どうせまっとうな話し手であるはずがなく、したがってまともな話であるはずはないのです。しかしそこはそれ、世の中には奇談・怪談など「まともでない話」の中にこそ我々の興味をかきたててやまない「なにか」が隠れ潜んでいることは、すでに御存知のとおりです。闇なくして光はなく、死のない世界に生はないのです。
 さて話を戻しましょう。かように数の多い漢字の中でも、ひときわ異彩を放ち燦然と輝いている漢字があります。それが「魔」です。私はそのキラメキをこよなく愛する者です。これほど魅力のある漢字は、他にちょっとない。そう思っているぐらいです。
 この漢字をちょっと分析的に見ましょうか。上に乗っかっている部首「广」は「まだれ」といいます。これはなにを意味するのか。「崖面を利用した家」あるいは「崖っぷちの家」らしいです。なにやら不穏ですね。またこの漢字は「鬼の上に麻」という解釈もできます。この場合の「麻」はなにを意味するのか。「人をしびれさせる・麻痺させる」意から転じて「正気でなくさせる・狂気に走らせる」という意味なんですね。そして「鬼」。この独特の形をした漢字は、じつは造形的に面白いのです。イメージ画像を御覧いただきたい。この「田の下に妙な記号がくっついた図形」はなんだかわかりますか。この「田」はじつは「グロテスクな頭部」だと言えば、大方の想像はつくでしょう。……そう、「奇怪な頭の人間が、人を正気から転落させようとしている」。それが「魔」なんですね。しかもそこに付加して「崖っぷちの家」などというなにやらホラームービー的な光景も見え隠れしているわけで、これはもう「魅力満載の文字」と言ってもいいのではないか。
 
 この部屋は、かように「魔」にほれこんだ筆者が語る「様々な魔の話」であります。「魔女・魔界」など「頭にくる魔」。「夢魔・睡魔」など「尻にくる魔」。「伏魔殿・逢魔時」など「中にくる魔」。……毎回のタイトルには必ず「魔」が寄り添い、その左右に並んだ文字が示す世界をダークサイドに引きずりこんでおります。「さまざまなま」にどうぞ御期待ください。