魔のオブザーバー(4)

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さて前々回の黒人男、パーカーのつづき。

下品な黒人の相手をしているうちにのぼせそうになったので、わざとゆっくりとした動作で右手を水中から浮上させ、彼の顔の真ん中、じつに見事な団子っ鼻をまっすぐに指差して「うるさい!」と言った。浴槽を出て周囲を見ると、驚いたことに浴室にいるのは我々だけだ。他のおっちゃんたちは「触らぬ黒人にたたりなし」とでも思ったのだろうか。あるいはぼくが黒人に「うるさいなぁ!」と注意した時点でこれは絶対にケンカになると予想し、余計なトバッチリをくらう前にさっさと退散を決めこんだのかもしれない。

ガラス戸の向こうを見るとバスタオルを使いつつ数人がチラチラとぼくの方を見ている。貴様らそれでもヤマトタケルノミコトの末裔か、とは思わなかったが、ぼくはわざとゆっくりとした動作でカランの前に座り、「3回に1回」と自分で決めて持参したトニックシャンプーを使った。髪という髪の隙間を涼風がビュッと駆け抜けるようなこの爽快感を毎回楽しみたいのは山々だが、「こればっか使うとハゲるらしい」という衝撃談を居酒屋で友人(化粧品メーカー勤務)から聞いてから、やむなく「3回の来場で1回使用」と決めている。いかがわしい黒人ごときの相手で、このゴールデンタイムを削ってなろうか。

やかましい黒人は大声で歌を始めた。ウンボウンボウンボホワイトゥ、サバノビッチィ。うるさいったらありゃしない。ケロヨンのフロオケを投げつけて「テメ、コノ、ウッセェんだよ!バーロー!」とタケシ口調で怒鳴りたい気分だ。

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以来、彼は銭湯でぼくを見かけると喜色満面で「ルサイナ!」と声をかけてくる。ぼくは苦りきって「バーカ、バカッ!」と言う。すると彼はさっそく腰を振り中指を立て、なにやらゴチャゴチャと言っている。大変にいかがわしい雰囲気なので即座に無視するが、他のお客が我々を親しい間柄のような目で見るので本当に困る。いつも「今度会ったときは他人のフリッ!」と決意するのだが、いつも出くわした瞬間に思わず「バカッ!」と言ってしまう。どうも困る。

………………………………次回【 その3:マグロおじさん 】

・・・・・・・・・・・・・・・・…( つづく )
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