魔 談【 魔の工房11】

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なにか霊的なものが人にメッセージを送ってくる。そんなことが本当にあるのだろうか。
「本当にあるかだって?」日常的に迷惑をこうむっている友人は笑う。「……いつもうるさくてしかたがない」
友人は言う。それはそこら中に浮遊しているのだと。気がつかない人は幸いであると。ぼくは彼に言わせれば「幸いなるかな」に属するわけだ。

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シャベルで雑草を払いのけながら廃屋に近づこうとするのだが、シャベルが重い上に、真夏を謳歌している雑草たちはぼくの背たけ以上ときてる。なぎ倒したように見えてもなかなかしぶとい弾力性があり、すぐにまたむっくりと起き上がってくる。最初は「ええいっ」とか「くそっ」とか汚い言葉を吐きつつめったやたらにシャベルを振り回していたのだが、じきに無駄なエネルギーを費やしていることに気がついた。
「この奥に眠れる美女でもいたら勇気百倍なんだけどさ」とぼくはつぶやき、なにか冗談を言いたくなったがやめておいた。ハアハアと息をきらせつつ「少しは頭を使えよ」と半ば自嘲的に考え、雑草の根っこあたりにザクザクとシャベルを入れて倒しながら進むことにした。これはうまくいった。

「……それにしても」
背後を見た。そこにはぼくが悪戦苦闘して道を切り開いてきた痕跡がありありと残っていた。前を見た。そのような痕跡はどこにもない。ダザイのヤツは雑草の隙間をすり抜けるようにして行ったのだろうか。
「……じつはアイツも幽霊だったりして」

ようやく廃屋にたどりついたが、ダザイの姿がない。屋内らしき場所に立って、周囲を見回した。元は柱だったのだろうか、数本の太い材木が斜めにグサッと地面に突き刺さったような状態で、雑草の間に見え隠れしている。蝉の声がすごい。頭痛が起きそうなほど鼓膜を叩いてくる。柱の一本に近づいてよくよく観察してみたのだが、「こりゃ相当に古いな」ということぐらいで、それ以上の情報を得ることはできなかった。
「人間の感情なんて、先入観のシッポみたいなもんだな」とぼくは思った。ミシマから妙な話を聞いたおかげで、周囲の状況を冷静に観察できない。どこかビクビクしている自分がいる。それがじつに腹立たしい。カサッと音を立ててバッタが跳ねた。ドキンとひとつ、鼓動が大きく乱れた。

「おおいっ」
呼んでみると返事があった。行ってみると、廃屋の裏手にあたるところに立っていた。そこは山の斜面がそのまま迫っているようなところだった。ダザイが指さしている方向を見ると、斜面に埋もれるようにして石像らしきものが見え隠れしている。数はよくわからないが、5体から10体ほどあるだろうか。かろうじて頭だけが出ているものもある。
「これがどうかしたのか?」
「これはお地蔵さんじゃないかと思う」
「おい!」ぼくは笑った。「ぼくたちは地蔵研究部かよ。そんなこた、どうでもいいだろが」
ダザイも笑ったが、まだなにか言いたそうだ。

「……わかったよ」
2秒ほどの間をおいて、ぼくが折れた。
「なにが言いたい?」
「お寺でもないのに、どうしてお地蔵さんがこんなにいるのかと思って」
ははあ、と思った。
「ここに子供の霊が4人だか5人だかいるらしいな。……それとなにか関係があると?」
「……確証はないけど……どうもそんな気が」

ダザイはシャベルの先端を器用に使って、石像周囲の雑草をザクザクと刈っている。
「……たぶん地滑りがあったのだと思う。もうずいぶん前のことだろうけど」
「なるほど。それで埋もれちゃってるわけだ」
「……すごく奇妙なのは」
ダザイはそのあたりを指差した。
「ガラスの破片がすごく多い」
「それがどうかしたのか?」
「普通のガラスじゃないような気がする」
「普通のガラスじゃない?」
イヤな予感がした。

・・・・・・・・・・・・・・・・…( つづく )