ホテルと山小屋が舞台の映画「ホテル・ニューハンプシャー」と「銀嶺の果て」

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今回は「ホテル」と「山小屋」を舞台にした映画2本について書きます。

映画「ホテル・ニューハンプシャー」監督:トニーリチャードソン 出演:ジョディ・ファスター ロブ・ロウ ナスターシャ・キンスキー他

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まず、アメリカ映画。ホテル経営を行う一家の物語を描いた、野球で言えば「変化球」映画である「ホテル・ニューハンプシャー」。83年に見た生涯のマイベスト5に入る「ガープの世界」の原作者ジョン・アービングの作品である。その彼の作品の映画化ということで、86年に「シネマライズ」という今は無くなった渋谷の映画館に見に行っている。
ホテル経営を行うアメリカの中流家族の話だが、「ガープ」の原作者の作品であるだけに、ストーリーが相当に捻ってあり驚くような展開になる。
話が凝っていて面白いだけでなく、ブラックとも言えるユーモアが随所に現れるのと登場人物も一筋縄では行かないアブノーマルな面を持っているところが好きだ。

高校生の美人の姉(若きジョディ・フォスター)と弟は近親相姦スレスレの危ない関係にある。家族は、頼まれてオーストリアのウイーンのホテル経営を手伝うが、オーナーの娘(ナスターシャ・キンスキー)は心に傷を持ちいつも熊の着ぐるみを着用している。そのホテルには娼婦と過激派がたむろっていて過激派はオペラ座爆破を企図したりする――というように、何ともヘンな人たちが沢山出てくる。

この家族には幸福の後に不幸が訪れる。逆も起こる。母親にも三男にも、父親にも次女にもそれが起こる。例えば、次女は作家となりベストセラーを出すも執筆のプレッシャーで追い込まれて窓から飛び降り自殺する。この家庭のモットーは「開いた窓は見過ごすように」、つまり、窓から飛び降りたりしてはいけない、「生き続けなさい」ということなのに。
驚きながら笑いながら見ているうちに、「ジンセイは悲劇と喜劇が同居しながら進む」というこの映画のテーマが浮かび上がる。そこがいい。
偏頗な映画だが、私の今の気分にフイットする。多分、一般の映画ファンというより映画通を選ぶ(?)映画だと思うが、お勧めだ。

さて、次は日本映画。こっちは正統派の「豪速球」映画で行く。しかし、隠れた名作と言うか、あまり一般的には知られていないのが悔しい。戦後まだ2年目の映画で、「ホテル」でなく「山小屋」が舞台、ドラマの中心になる「銀嶺の果て」だ。

映画「銀嶺の果て」監督:谷口千吉 出演:三船敏郎 志村喬ほか

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東京で銀行強盗を行い警察に追われ、仲間割れをした犯人二人が信州安曇野の雪山に逃げ込む。二人とはその後黒澤明映画で黄金のコンビを組む三船敏郎と志村喬だ。
山小屋には少女(若山セツ子、丸顔。何と言う、ういういしさ)とその祖父(高堂国典、独特の風貌)、そして雪のため下に降りられなくなった山登りの専門家本田(河野秋武、渋い)がいる。
犯人は、山小屋で「ローゼンモルゲン(バラ色の朝)」という言葉を教えてもらったり、ゆず入りの蜂蜜茶を飲んだり、「マイ・オールド・ケンタッキー」のレコードを蓄音機で聴いたりして、次第に3人と交わる。囲炉裏で食事し、雪を使ってお風呂を沸かしたり、氷柱で熱湯を埋めたりする生活だ。そうするうちに志村喬の方はわずかだが、住人たちの素朴な優しさに触れ人間らしい気持ちを取り戻してゆく。

しかし、三船が山男の河野を脅して道案内をさせ山越えをして逃げようとする。ここからが、この映画の圧巻。冬山の雪道や、大きな岩のある頂きを3人がザイルで体を結び付けて登っていく。撮影たるや息を呑む(実際、見ながらあっと声を上げたシーンもある)。
詳しく書かぬが、河野は腕を骨折してまでも、岩から落下しようとする二人を助ける展開になる。その、敵たる犯人を助けた理由を聞かれて「山登りには絶対ザイルを放さない掟があるのだ」と答えるところがもう痺れる位いい。

ラストの直前、煙の上がる山小屋を背景に、少女が雪の中、警察に護送される犯人を見送る。山岳アクション映画と言うより、ヒューマニズムと山のロマンティシズムが横溢する映画だ。脚本は何と黒澤明。心から見てほしいと思う。

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※暴風雨サロン2「ホテル文学を語る」みやちさんの記事もぜひどうぞ。
「フーテンの寅さんは、ホテルに宿泊したことがあるか?」

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