トモアキは佐野アサ子とは三四年のとき同じクラスだった。勉強がやたらとデキる上に、整った顔立ちで大人っぽく見えるから、当時からどうも苦手だった。ひがみかもしれないが、上から見られてるような気がする。
トモアキの表情が変なのに気づいたか、ジュンがふりむいた。
「佐野、なんか用か?」
トモアキの心も知らず、ジュンは気楽に声をかける。
「きみたち、将棋クラブなんだ」
「そうだよ」
「で、大会出るんだ」
「それがどうした?」
佐野アサ子は、ちょっと考えるみたいに、大きな目をくるりと動かした。
「いやね、弟が最近将棋にこってるの。話聞いてると大会のメンバー足りないんでしょ? よかったら弟のトオル、いれてあげてくれない? 四年生なんだけど」
なんだ、そんな話か。トモアキがほっとした瞬間、
「佐野っ、盗み聞きはよくないぞっ!」
ジュンがへんな声をはりあげた。担任の榎本先生のモノマネだ。
「バーカ。小松の声はろうかまで聞こえるじゃない」
アサ子は冷静に正しいことを言った。いつも少年野球で「声を出せ!」ってどなられてるせいだろう、ジュンの声ははりあげなくても教室中にひびく。
「四年じゃどうせ弱いんだろ」
「でもパパとよくやってるからコマの動かし方くらいはまちがえないと思う。どう、ダメ?」
「そうだねえ……」
ジュンは気が進まないような声を出したが、トモアキの考えは違った。とにかくあと二人はぜったい必要なのだ。
あの不熱心な将棋クラブの連中は、たのんだって出てくれるかわからない。日曜日は遊びに行くやつもいるし、塾に行くやつもいる。福祉会館? 遠いじゃん、やーだね。そんな反応が予測できる。四年だろうと何だろうと、コマが動かせて自分から出たいと言うならベリーオッケーじゃないか。
――――続く
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