別訳【夢中問答集】梵僊和尚による後書き(再版時) 2/2話 <<最終回>>

確かに、国師がここに書かれていることを話されたのは、あくまでも悩める副将軍だった足利直義さんの質問に答えたまでなのであり、その他多勢の役に立てようなんていう気はなかったでしょう。しかしですね、あのブッダもまた、そうだったではありませんか!

ブッダは決して最初から「世界中の人々を救う」などと大風呂敷を広げて説法を開始したのではありません。その場その場で、特定の人からのプライベートな質問に答えていったまでのことです。そしてそれが結果として、未来にわたって大勢の人々を救うこととなったのです。

ご存知の通り、当事は文字ではなく暗記による伝承がメインでしたから、当のブッダが亡くなった途端に「言った言わない」の確認ができなくなり、あっという間に教義の混乱が巻き起こりました。

それを収束させたのが、ブッダの話を直接聞ける立場にあった弟子たちが組織した「テキスト統一委員会」だったのです。

彼らが巷に溢れた教義・教説を幅広く集め、比較検討の上で「決定版」を確定する作業である「結集(けつじゅう)」を実施してくれていなければ、仏滅後二千年以上も経った今、どうして我々はその内容を正しく知ることができたでしょうか!?』

で、国師は渋々ながらも出版を承諾し、たくさんの人たちがちゃんとした「決定版」を手に入れることができるようになりました。そして、信頼性の高いテキストが一本、歴然としてあるお陰で、皆は安心してまっすぐに大道を進むことができるようになったというわけです」

それを聞いて、ワシは言ったよ。

「全くじゃ! ああ、全くそのとおりじゃ!

ところでオマエさんはわかっておるのかな?

その「大道」などというものは、誰に教えてもらうまでもなく、いつだって実にハッキリと我らの目の前にあるのだということを。

そして現在・過去・未来の仏たちや師匠たちが説くような教義は皆、寝言のようなものなのだということを!」

法延くんは言ったさ。

「わっはっは! こりゃまた一本取られましたね。というわけで和尚、是非、今の話も追加しておいてくださいよ」

で、ワシはOKしたというわけじゃ。

法延くんはまた、こんなことを言っていたっけ。

「ご存知ですか? 大高さんは自分のことを「ビーチボーイ」または「渚の男」と呼んでいるらしいですよ。(笑)

果てしなく広くて深い知識と情熱の大海原を内に秘め、絶えることなく波打ち際の連中を楽しませ続けるという心意気を示しているわけですね。

今年の春先に福井県知事に転勤になったということですが、あんな男は、なかなかいませんよ。全くもって、維摩のオッサンみたいな人でしたなぁ……」

西暦一三四五年十月八日南禅寺 東部居住エリアにて
中国からの渡来僧  梵僊 再版に寄せて

<<別訳【夢中問答集】 完>>


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