【善財くんがゆく!】第十話 善財くん、炎へ飛び込めと言われる:第四の善知識・勝熱バラモン (1)

善住比丘と別れてから、
数日が過ぎていた。

善財は、
山道を南へ歩き続けていた。

空は高い。

風は穏やかだ。

だが。

善財の胸の中には、
妙な引っかかりが残っていた。

――勝熱バラモン。

善住比丘が最後に口にした、
次なる善知識の名である。

しかも。

『少々暑苦しい』

『火が好き』

あまりにも嫌な予告だった。

善財はため息をつく。

「次こそは……

もう少し普通の人だといいんだけどな」

しかし残念ながら、
ここまで一人もいなかった。

徳雲比丘は、
世界中を同時に見ていた。

海雲比丘は、
海そのものと繋がっていた。

善住比丘は、
空を歩いていた。

もはや基準が分からない。

善財は疲れた顔で山道を進む。

すると。

少しずつ、
空気が変わり始めた。

熱い。

最初は気のせいかと思った。

だが進むにつれ、
明らかに暑くなっていく。

風が乾いている。

地面も熱を帯びていた。

善財は額の汗をぬぐう。

「何だこれ……」

さらに進む。

すると。

遠くの空が、
赤く染まっているのが見えた。

夕焼けではない。

煙だ。

善財は立ち止まる。

嫌な予感しかしなかった。

だが、
ここまで来て引き返すわけにもいかない。

善財は覚悟を決め、
熱気の向こうへ進んでいく。

やがて。

山を越えた瞬間だった。

善財は絶句した。

「……は?」

巨大な炎が、
燃えていた。

山ほどもある火柱。

轟々と燃え上がる業火。

熱風が吹き荒れ、
空気そのものが揺らいでいる。

しかも。

その炎の周囲には、
無数の刃が突き立っていた。

刀。

槍。

剣。

鋭利な刃物が、
山のように積み重なっている。

まるで地獄だった。

善財は顔を引きつらせる。

「何だよこれ……」

その時だった。

炎の向こうで、
誰かが笑った。

豪快な笑い声だった。

「はっはっはっは!!」

炎が揺れる。

その中から、
巨大な人影が現れた。

長い髪。

燃えるような眼。

褐色の肌。

全身に熱気をまとった男。

男は、
炎を背負うように立ち、
楽しそうに善財を見下ろしていた。

「来たか!!
善財童子!!」

声がデカい。

善財は思わず後退る。

男は立ち上がった。

でかい。

善財より頭二つは大きい。

しかも筋骨隆々である。

どう見ても修行者というより、
山賊の親玉だった。

男は胸を叩いた。

「我が名は勝熱!!」

炎が爆ぜる。

熱風が吹き荒れる。

「人はワシを、
“勝熱バラモン”と呼ぶ!!」

善財は、
嫌な汗を流していた。

本能が叫んでいる。

(ヤバい)

この人は。

今までで一番ヤバい。

勝熱バラモンは、
豪快に腕を組んだ。

その背後では、
巨大な炎が唸りを上げている。

熱い。

立っているだけで、
肌が焼けそうだった。

善財は思わず訊く。

「ええと……
その炎、
何なんですか?」

勝熱バラモンは、
当然のように答えた。

「煩悩を焼く炎よ!!」

炎が爆ぜる。

善財はびくっと肩を震わせた。

勝熱バラモンは、
満足そうに頷く。

「人は皆、
余計なものを抱えすぎておる!」

どん。

自分の胸を叩く。

「恐れ!」

どん。

「執着!」

どん。

「思い上がり!」

どん!!

そのたびに、
炎が大きく揺れた。

善財は若干引いていた。

声量がおかしい。

勝熱バラモンは、
刀の山を指差した。

「見えるか!!
あの刃の山が!!」

「はい……」

「その上を越え、
炎へ飛び込め!!」


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