仏映画「新凱旋門物語」、イラク映画「大統領のケーキ」、独映画「1975年のケルン・コンサート」

先日の朝日新聞に面白い記事があった。女優の片桐はいりの言葉だ。
「世界は自分がいる場所だけじゃないことを知るだけでも、絶対に価値のある2時間なんです」。
いい事言うなあ。さすれば、今回は、知らない世界を描く外国映画3本を紹介したい。

監督:ステファン・ドゥムースティエ 出演:クレス・バング スワン・アルロー他

監督:ステファン・ドゥムースティエ 出演:クレス・バング スワン・アルロー他

まず、フランス映画「新凱旋門物語」。実話を基にした秀作。
80年代にコンペを行い「新凱旋門」の設計が決まる。キューブをくりぬいた様なユニークな建物だ。デンマークの無名建築家、現場を指揮するフランスの建築家(シャルル・ド・ゴール空港の設計者)、政府の予算面の責任者によって工事が始まる。時折、時の大統領ミッテランが絡む。予算、そして政治という現実が加わり、なかなか、建築家の理想通りに進まない。その人間くさいドラマがいい。

建築って、技術的にこんな風に行われるんだ。例えば、建物の壁になる資材。建築家自ら車でイタリアまで行き、壁に適した大理石を調査する。建築家は、高価でも夕暮れに「ワイン色」になる大理石を求めたいのだ。雨の時にその大理石の上で人が滑らないか、ミッテランも交えて現場で実地検査するのも面白い。
見てのお楽しみだが、あっという結末になる。アプローチは違え、関わった者たちは、友愛の念で結ばれていたことが分かる。

役者も皆いい。建築家を演じるのはデンマーク人クレス・バング。長身でデカい。最初は大人然としているが段々こだわりが出る。フランスの建築家は小柄で現実主義者。予算を管理する役人役は珍しくスーツを着た、映画監督でもあるグザヴィエ・ドラン。

監督:ハサン・ハーディ 出演:バニーン・アハマド・ナーイフ サッジャード・モハンマド・カーセム他

監督:ハサン・ハーディ 出演:バニーン・アハマド・ナーイフ サッジャード・モハンマド・カーセム他

次に、イラク映画「大統領のケーキ」。見終わると大きな衝撃を感じ、茫然としてしまう映画。
イラクと言えば砂漠と言うイメージしかなかったので、冒頭の、少女が暮らす世界遺産だという南部の湿地帯「アフワール」を横長スクリーンで捉え、船で学校に行くという描写にはびっくり。

少女は、学校で「くじ」に当たり、大統領の誕生日にケーキを作り、学校に持って行くことになる。少女は町に出てゆきケーキの材料を買い求めようとする。

正直に告白すると、前半ウトウトしてしまった。当日、映画を見る前に水泳をしたこともあるが、自分の背景知識のなさから、行っている行為の意味が分からなかったのだ。
実は、時代は1990年代。湾岸戦争の頃で、戦時下のイラクなのだ。大統領はサダム・フセイン。町に行って、いろいろと材料を買うのも貧しい少女にとって大変なことだったのだ。

途中まで、「友だちのうちはどこ?」のような牧歌性を感じていた。しかし、段々、「サダム・フセインに魂と生命を捧げます」と言うシュプレヒコールを上げながら街を行進する群衆に驚きと不穏さを抱く。また、親切そうに見え、言葉巧みに少女を怪しいところへ連れて行くバザールにいる中年男の存在から、段々、普通とは違う異様さを感じてきた。時折、戦闘機が遠くの空を飛んでいく。

映画の最後が一番衝撃的なところだ。小学校の爆撃が始まるのだが敢えて詳しく書かない。アメリカの爆撃もヒドイが、こんな戦争下、市民に大統領への盲目的忠誠を強いている状況もヒドイ。

監督:イド・フルーク 出演:マラ・エムデ ジョン・マガロ他

監督:イド・フルーク 出演:マラ・エムデ ジョン・マガロ他

好きな映画をもう一本! 6月公開だった中々面白いドイツ映画「1975年のケルン・コンサート」。タイトル通り、1975年ケルンで、18歳の女の子ヴェラが、キース・ジャレットのソロコンサートを企画し、当日起きたハプニングを乗り越え成功させる実話に基づく。

キースが希望したピアノが会場に無いので、ヴェラはドタバタと走り回って問題を解決しようとする。主人公の家族との葛藤が面白い。歯科医の父親が石頭でゴリゴリの権威主義者だが、70年代のドイツにはこんな頑固オヤジいただろうなあと思わされる。

実は名前しか知らなかったキース・ジャレットの人物像も興味深かった。自分の意志を貫き、やりたい音楽をやろうとするため金がなく、飛行機代をケチって車で長い時間を掛けて移動するのが面白い。アメリカから来た音楽記者マイケル・ワッツと一緒に夜や朝のドイツの田舎町を車で走る時の会話のやり取りがとても面白かった。車が疾走する時の風景を捉えた映像もいい。キースは不眠があるし、繊細で勝手な男。でも、それが魅力的だ。

この時の即興演奏の録音が世界的ベストセラーになるというのだから、世の中面白いものである。Youtubeで聴くと、確かにいい。

(by 新村豊三)

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