別訳【夢中問答集】第九問 そもそも「お祈り」とは? 2/2話

昔の密教の師匠たちも言っておる。「密教でいうところの『調伏』というのは、思い上がったバカモノの度肝を抜くことで謙虚な気持ちを起こさせて、まともな道に引き戻すためのテクニックのひとつなのだ」、とな。

また、「どうしても言うことを聞かない『度し難いバカ』には、一度死んでもらう」とも言っておるが、これは「憎らしい相手をぶっ殺す」ことが目的なのではなくて、「真人間に生まれ変わらせる」ことを目的としたものなのじゃ。

涅槃経に掲載されているエピソードによると、かつてお釈迦様は国王だったことがあるのじゃが、ある時、多勢の坊さんたちがたった一人の坊さんをよってたかってイジメているので調査したところ、どう考えてもイジメられている一人の方が正しくて、他の坊主どもはそれが面白くないからそういうことをしているということが判明したのじゃそうな。

そこで自ら軍隊を率いて攻め込むと、イジメられていた一人以外の坊主を全員ぶっ殺してしまったとのこと。しかも、とんでもない大殺戮をしたにもかかわらず、「正しいものを助ける」という目的のもとに実施したことであるので、全く罪に問われなかったとか。・・・

なんだか極端すぎてアブナイ話のようにも思えるが、我が国にも似たような例がある。かの聖徳太子が大臣の物部守屋を殺害したのがそうじゃ。

これも、もしも聖徳太子が「守屋の勢力が強くて自分の地位が脅かされているのがイヤだ!」などの理由で実行したのであったなら、家臣や人民は愛想を尽かして離れていったことじゃろう。そしてロクな死に方はできないし、生まれ変わった先でもロクでもないことが待っておることは疑いない。

涅槃経にはまた、こうも書いてある。「『ムカつくことをされたから、ムカつくことを仕返してやる!』というのはつまり、燃え盛る焚き火を消すためにガソリンをぶっかけるようなものだ」とな。

いいか? 仏や菩薩たちの慈悲深さは、まさに底なしじゃ。神道やその他の宗教で拝まれている神々も、実は仏や菩薩が化身したものであるので同じく底なしじゃ。そしてその底なしの慈悲心は、生きとしいけるもの全員に等しく及んでおる。

そんな仏や神々が、「オレ様は栄えろ! 敵は死ね!」的なお祈りに耳を貸すと思うか?

本当に仏教を信じている人は、決して「無病息災」などというものを願ったりはしない。もしも「無病息災」などという状態になってしまったら、なんの努力もする気がなくなって、あっという間に堕落してしまうことを知っているからじゃ。

それでは何を願うべきかといえば、それはもう、「全世界に平和を!」ということに尽きる。
漠然とし過ぎているように思うかもしれないが、様々な正しい願いは全て、この一点に集約されるのじゃ。

これを心底願って努力することができてこそ、心も身体も俄然パワーアップするし、仏や神々も力を貸してくれようというものじゃ。

「いやいや、武器などを使って物理的に殺害するのは殺人罪となりますが、祈りパワーによる呪殺は不能犯として扱われるので処罰の対象とならないのですよね?」などとぬかすヤツがおるが、とんでもないことじゃ。

先にも言ったように、お釈迦様は国王時代に軍勢をもって大量殺戮をしたし、聖徳太子も武力を行使して敵対する一族を滅ぼしてしまったにもかかわらず、殺人罪に問われなかったばかりか、当時はもちろん、遠い未来である今まで、人々の尊敬を集めておる。

逆に、仏教の名を冠した呪殺の法であっても、俗物根性丸出しでやるのであれば、成功しないことはもちろん、人々の支持も得られないじゃろう。

梵網経に、「殺生禁止! 呪い殺すのもダメ!」と書いてあるのは、つまりこのことじゃな。

また、「いやいや、仏教パワーによる呪殺は、『一刻も早く仏になってね!』という親切心で実施するわけなので、罪にはならないんですよ」などと言うヤツがおる。

それほど親切な気持ちを持っておるのであれば、憎らしい相手なんて放っておいて、真っ先に自分の一番大切な人からぶっ殺して「仏」にしてやればよいのにな。(苦笑)

<第九問 そもそも「お祈り」とは? 完>


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