足利直義:そんなことおっしゃったら、世の中で「お祈り」する資格がある人なんて、ほとんどいなくなってしまいますよ・・・
もういっそのこと、「お祈りなんてするだけムダだから全面禁止!」とでも宣言した方がいいのではないですかね?
夢窓国師:いやいや、またすぐにそうやって思い詰める・・・
「お祈りなど意味がない」と言うのはじゃな、例えば「食べる時邪魔だからタネなしのビワを実らせてください!」などと願うようなヤツに対して、「そりゃ祈ってもムダだよ。仮にその願いがかなったところで、永遠に食い続けられるわけでもなかろうに」と言うようなもんなのじゃ。
そうは言ってもじゃな、「果物のタネを祈りで無くしよう」などと考えるようなバカモノに対して「それはムダだからやめなさい!」と声高に命じたところで、「じゃあ、もっと崇高な理念のために祈りましょう」などとなるわけもない。単に神仏に対する信心を失うばかりで、そこに秘められている「真実の道」に触れる機会もまたなくなってしまうことじゃろう。
つまり「お祈り」自体を禁止しても、何の意味もないのであって、そういったバカモノに対しては、「なんでも願い事があるならば、神社やお寺にいってお祈りするといいよ!」と、むしろ励ますべきなのじゃ。
密教系の寺院で実施されている様々な調伏息災の儀式があるじゃろ? 火を燃したりするやつ。あれはつまり、知識も想像力もないバカモノたちを誘引するための手段なのじゃよ。
密教の経典である大日経に、「究極の真実には決まった姿かたちはないので見聞きすることはできず、言葉による説明も不可能である。しかしそうなるとバカはいつまでもバカのままで終わってしまうので、せめて見せ掛けだけの儀式によって注目させ、導きのキッカケを作ろうとするのである」と書かれているのは、つまり、このことじゃな。
<第八問 お祈りは意味ないから禁止? 完>
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