別訳【夢中問答集】第十問 有力者なら祈ってもOKなのか? 1/2話

足利直義:・・・しかし和尚、確か仏さまは、「仏教の保護・流通は、金持ちや権力者たちに任せることにする。理想論はともかくとして、そうでもしなければ存続できないと思うからだ!」と仰ったとか。

そういうことであれば、そこら辺の坊主どもが金持ちや権力者の依頼を受けてお祈りや儀式を実施するのも、和尚が言われるほどヒドイことではないような気もするのですが・・・

夢窓国師:バカタレ! そもそも仏さまがそう仰ったのは、「そういった有力者こそ真っ先に改心して、皆の先頭となって仏教を流布すべきだ」という意味なのじゃ。つまり、トップダウン型の布教活動を目指したワケじゃな。

決して、「仏教パワーを駆使することで、さらに権力や富を得てウハウハになりなさい」という理由で彼らに任せると言ったワケではない。

お祈りはつまるところ、人々の幸せのため、ものごとの正しい道理を明らかにするため、世界平和のためにこそ、実施されて然るべきなのじゃ。それ以外のどんな目的で実施しても、仏さまを裏切ることにしかなりゃしない。

最早とっくに世も末になってしまったワケなのじゃが、それでもまだ仏教は尊敬を失っていないので、坊主どもは徴兵されることもなく、これといって生産活動をするわけでもなく、税金を取られることもない。で、「どうせブラブラしてるんだったら、せめてお祈りでもしててくださいよ!」、というわけで、権力者たちからの依頼でお祈りを実施しているわけじゃ。

まぁしかし、このところ紛争が多発しておるおかげで、西でも東でも「お祈り」が盛んに行われておるのじゃが、ワシに言わせれば、あんなんじゃまるでダメじゃな。お祈りにもなんにもなっちゃおらんよ。

いいか? 仏教における「お祈り」とは、この世に満ち溢れる様々な条件や要因、思いなどを整理統合して、然るべき結果へと導くためのものなのじゃ。

そうであるが故に、正しく実行したならば、成功しないということがない。

昔の立派な坊さんたちが実施したのもまさにそれで、「国家安全・無病息災」と唱えつつも、そのお題目を通じて一般大衆に「思いやり」「まごころ」といったものの大切さを強く訴えていたのじゃ。

「儲かりたい」とか「権力者になりたい」などの気持ちが入り込む余地は、そこにはない。

そしてその「皆の幸せを願う」気持ちの放射が実に強力であったため、権力者や金持ちはもちろんのこと、一般大衆も全てそれに感じ入って心をひとつにすることができたのじゃ。

「あらゆる願いごとが全てかなう」というのは、そういう状態のことではないのかな?

さて、今はといえば、権力者や金持ちはもちろんのこと、坊主ども自身ですらも、マジメに仏教を信じてなどおらん。

そんな状態で、ただ日常的にお祈りを繰り返したところで、それは全くかたちばかりのことじゃ。ボンクラのサラリーマンが毎日習慣的にタイムカードをガシャンと押しているのと大差ない。

そんな連中が、たまに一大イベントとして大法要を行うといったところで、依頼する方もたいして期待しておらんので、供物もかたちばかりじゃ。そんな状態で実施されるものは、もはや「お祈り」とは呼べない。「願いごとがかなう」ための役になど、立つわけがないよな。

―――――つづく


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