足利直義:・・・話を変えさせてください。
仏教修行は気をつけて実施しないと「魔道」に入ってしまう危険性があると聞いたことがあります。これはいったい、どういうことなのでしょうか?
夢窓国師:仏教を妨げようとする行為を「魔業」と呼ぶ。
そして「魔業」をしたが最後、必ず「魔道」に入ってしまう。
詳しいことは大般若経の「魔事品」、首楞厳経(しゅりょうごんきょう)や天台宗の修行マニュアル「止観」に書かれておるからそちらを読むといい。
要約して言うなら、魔には「内魔」と「外魔」の二種類があるということじゃ。
魔王だとかその使い魔だとかが外部からやってきて修行者にイヤガラセをする、というのを「外魔」という。
魔王は欲界の頂点である「第六天」に君臨しており、天魔とも呼ばれる存在じゃ。で、世間で「天狗」などと呼ばれておるのがその使い魔じゃ。
魔王は、人間たちは全て自分の家族だと思っておる。
俗世間での事柄にしか興味のない人間は、永遠に輪廻の連環から脱出してしまう心配がないので、ちょっかいを出されることはない。
しかし、仏教の修行が完成すると脱出できてしまう。
そうなると自分の世界の住人が減ってしまうことになって具合が悪いので、魔王は必死にジャマしにくるというわけじゃ。
魔王たちの神通力は強力で、空を飛ぶことはもちろん、身体から光を放ったり、過去や未来のできごとを見通したり、仏や菩薩の姿になって仏教の教理を講釈することなど余裕でできてしまう。
涅槃経にはこんなエピソードが書かれておる。
「ある日、アーナンダが外出先から帰ってみると、九百万人のブッダが勢ぞろいしていた。
姿かたちは全員ブッダそのもので、まったく見分けがつかない。
しかも、互いに仏教の教理を滔々と述べては言い争っているではないか。
アーナンダはどれが本物のブッダかまるでわからなくて、ただもう、茫然と立ちつくすばかりじゃった。
そこでブッダが文殊菩薩に一喝させたところ、全員クモの子を散らすように退散したとか。
―――――つづく
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