別訳【夢中問答集】第十問 有力者なら祈ってもOKなのか? 2/2話

今、鎌倉に智光という名の中国人の名医が来ているのじゃが、ある時「蘇香丸」という丸薬を練り合わせていたところ、見学していた人が好奇心から一粒ツマミ食いしてしまったとか。
それを見た智光さん、こう言って叱ったそうじゃ。

「あっ、こら! 何をしているんだ! もっとたくさん飲め!」

で、言われた側もビックリして、「はい!?」とたずね返したところ、「薬というものには、それぞれに決められた用量というものがあるのだ。どうせ飲むなら、効き目をあらわすのに必要なだけの量を飲みなさい!」と答えたとか。

お祈りだって同じことじゃ。どうせやるんなら、ちゃんと効き目が出るようにやれというんじゃ!

いいか? お祈りパワーの強弱は、「やる側の心がどれだけしっかりと定まっているか」による。「お祈りサービス料」をたくさん支払えば、それだけ強力になるというものではないのじゃ!

もう一度言うが、お祈りでも何でもそうじゃが、「やるならちゃんと結果が出るようにやれ」ということじゃ。

それから仏さまがトップダウン型の布教活動を目指して、特に権力者や金持ちたちにそれを委ねたのはな、食べるにも事欠くような貧乏人たちにはとても無理だと考えたからじゃ。

ここで誤解してはいかんぞ。仏さまは、「貧乏人は救いようがない」と考えたのではなく、「貧乏人を救うことは、むしろ簡単だ」と考えたのじゃ。

不幸のどん底にあるような人たちは、「心のよりどころ」をひとつだけ、何でもよいから持てればそれで充分救われる。

しかし、ほとんどの場合は、その人だけが満足して終わってしまい、それを他に及ぼすところまで行き着かない。色んな意味で、余力がないからじゃな。

そこで仏さまは、権力者や金持ちたちに、さらに高いハードルを掲げたのじゃ。

「自分自身の心が救われても、そこで立ち止まってはいけない。自分のサクセスストーリーのみに固執して、未知なる手法の可能性を否定してはいけない。自らがゴールインしたと感じたなら、そこを新たなスタート地点とみなして、さらに皆とともに進め。しかも、皆のための給水所や休憩所を設置しながら進め!」とな。

これはつまり、フルマラソンを走りきった者に対して、直ちに落伍している人たち全員をゴールまで連れてくるように命令するようなもんじゃ。しかも、薬品や食料・飲料などを大量に背負わせてな。

そんなこと、超人的な体力と気力の持ち主にしか、到底できることではない。つまり仏さまは、権力者や金持ちたちには、そのぐらいの能力があると認めて任せてくれたわけじゃ。なんとまあ、かたじけないことじゃとは思わんか?

話を戻すが、「有力者によるお祈り」はOKじゃ。ただしそれも、今言ったようなことを肝に銘じて実施する場合のみじゃ。

そもそも、有力者を有力者たらしめている理由をよく考えても見ろ。それは決して本人の努力だけでは説明がつかないハズで、背後には必ずものごとの正しい道理があり、それを正しく発揮するための様々な条件があるのじゃ。

そしてそれを明らかにしてくれたのが仏さまじゃ。

もしも、そのことを忘れておるというのでは、そいつはもう有力者とは呼べない。そんなヤツのお祈りは、全て無効じゃ!

<第十問 有力者なら祈ってもOKなのか? 完>


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