別訳【夢中問答集】第十五問 加持祈祷の真意とは? 3/3話

かつて、禅宗の大ファンだった北条時頼さんが建長寺をつくった時、宗の国(中国)から招かれて初代住職となった大覚禅師(=蘭渓道隆)は、信者に頼まれるがままに祈祷をする坊主に対し、こう言って叱ったそうじゃ。

「そんなことをやっているようでは、オマエはとてもまっとうな宗教者とは呼べんな。坐禅修行や経典の勉強をしっかりやっているとかいないとか以前の問題じゃ!」

そんなわけじゃから、世間一般の愚にもつかない利益など、取り扱うのもアホらしいということになるのじゃ。

坊主どもだけではなく、信者やその家族たちもまた、「究極の真実」を悟ることだけを目標としなければならない。

大覚禅師に引き続き、兀菴(ごつあん)、佛源、佛光と、続々と宋の国から大禅師が渡来したのだが、彼らがやろうとしたこともまた、それに尽きるのじゃよ。

そのおかげかどうかはともかく、当時の在家の信者たちは今と違ってキモが座っておった。

ちょうどその頃、蒙古襲来という大事件があったのじゃが、坊主どもはもとより、信者たちの誰もが慌てず騒がずだったという。

当時の建長寺住職は佛光禅師だったのじゃが、大事件勃発中にもかかわらず、皆を呼び集めて物事の道理についての講義を実施したそうじゃ。その講義の様たるや、実に素晴らしいものであったと寺の記録に残っておる。

そしてその後も円覚寺を建立したりして引き続き禅宗の普及につとめたおかげで、モンゴルの軍隊に占領されずに済んだのはもちろん、北条家も二代までつつがなく政権を担当することができたのじゃ。

余談じゃが、北条時頼も、その息子の時宗も、なかなか立派な往生ぶりだったとか。

さて、その後も二代続けて北条家は禅宗の信者であったワケなのじゃが、どちらかというと仏教よりは世間の事柄の方を重視したようで、大して重要でないことでもアレコレとお祈りするように寺に依頼するクセがついてしまった。

そして寺の側も権力者からの依頼に対応して年がら年中祈祷行事に明け暮れるようになってしまい、じっくりと腰を据えて教理を研究することを通じて人格を高め、実践の方法を模索するなどということはすっかり廃れてしまったのじゃ。

皆が口々に「これは大事なことですから!」とアレコレお願いし、「まぁ、儲かるからいいか」とばかりに坊主もそれを引き受ける。

こいつらは皆、既に「本当に一番大事なこと」は何であるのかを忘れてしまっているのじゃ。

「仏教を滅ぼそうとたくらむ敵」と呼ばずして、何と呼ぶべきかの!

<第十五問 加持祈祷の真意とは? 完>


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