足利直義:なんだかんだ言ってますけどね、最近の坊さんたちときたら、どうでしょう。
金儲けにばっかり走りやがって、まったくロクなもんじゃありません。終わってますよね、ハッキリ言って。
あんな連中を有り難がって、寺を建てて住ませてやった挙句、金まで渡して、しかも修理するのも我々だって!?
おかしいでしょう!そんなの・・・
とか言ってる人がいるんですけど、和尚はどう思われますか?
夢窓国師:いやいや・・・ まぁ確かに、坊さんに限らず今どきの連中は昔の人に比べるとレベルが低いのばっかりじゃ。しかも、年を追うごとにドンドンしょうもなくなっていくばかり。
しかし、「前任者よりも出来がよいヤツがいないから」といって皆切り捨ててしまったのでは、役人も兵士も誰も成り手がいなくなってしまう。
一応その職業に就くつもりで幼い頃から教育を受けてきた人、まぁつまり「世襲」の連中なのじゃが、は、「出来が良い」とはとても言えないまでも、なんとか体裁を保つぐらいの役には立つもんじゃ。政治家の連中などその最たるもんじゃ。
で、坊主どももそれと同じで、先の師匠を超えることができた人などほとんどおらんのじゃが、一応、まぁ、仏教とか禅とかを今に伝える役には立ってきておる。
生身のブッダがいた時代は彼に直接話を聞けばよかったのじゃが、いなくなってからは、その教えを直接受けた人たちに話を聞くしかないじゃろ?
そしてその人たちすらもいなくなってからは、その弟子たちがまとめたテキストを読むとか、絵やフィギュアにしたものを眺めるとかしか、教えの内容を知る方法がないのじゃ。
本当のことを言えば、ブッダ説くところの「究極の真実」は、今も昔も変わることなく宇宙を満たし続けているのじゃ。
ところが、人間のデキが悪化していくもんじゃから、どんどんそのことがわからなくなっていく。
それでも、たとえ形だけでもブッダの教えを追い続けることによって、なんとか場をつないでいるというわけなのじゃ。
ブッダもブッダの本当の教えも、とっくに滅び去ってしまった。
そして、全世界を救済するというマイトレーヤ(弥勒菩薩)は、まだ出現していない。
そんな中途半端な時代に生まれた我々が、それでも救いを求めようとするならば、いったい何を頼りにしたらよいのか?
形ばかりのものでも、無いよりもマシではないのかな?
それにじゃな、坊さんばかり批判するのも間違っとるぞ。
もしも「功徳」の多寡が「信心深さ」の浅深によって決まるのだとするならば、ブッダが実在するとかしないとかに関わらず、今だって充分に大量の功徳を得ることができるハズじゃ。
―――――つづく
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