別訳【夢中問答集】第十六問 ヘボい坊さんでも悪口禁止! 2/3話

ある坊主の人格がくだらないからといって、信心まで失うというのは、冷静に考えてみれば決して正当化できないことはわかるよな?

自分の居住エリアを担当する坊主が、「ブッダや伝説上の菩薩たちに比べてしょうもないから信じられない」というのであれば、どれほど丹精込めて造ったところで仏像や仏画だって所詮は単なるモノじゃ。生身のブッダに勝る仏像があると思うか?

お経だってそうじゃ。「所詮、真実はテキスト化することは不可能である」ということが書かれた書物を、皆で有り難がっているわけなのじゃが、これも冷静に考えてみればおかしな話じゃ。

しかし、「こんなものニセモノだ!」とばかりに捨ててみたところで、何かよいことがあると思うか?

「生身のブッダがいない以上、お経も仏像も坊主も全部役立たずのニセモノだ!」とばかりにほっぽり捨ててしまうのが正しいやり方だと思うか?

大集月蔵経というお経には、次のように書かれておる。

「私がいなくなってからの遠い未来、ルールを無視してやりたい放題というヒドイ坊主が必ずあらわれることだろう。

しかし、そんなデキの悪い坊主でも坊主は坊主、仏の弟子なのだ。

それをバカにするのは仏をバカにすることだ。

それをキズつけるのは仏をキズつけることだ。

逆にそれを敬うならば、大量の福が得られること疑いなし!

純金はとても貴重なものだが、金がなければ銀が、銀がなければ銅が、銅がなければ鉄が、鉄がなければ錫や鉛の合金が、一番貴重なものとなる。

仏が一番尊いのは言うまでもないが、仏がいなければ菩薩が、菩薩がいなければ羅漢が、羅漢がいなければモノの道理を理解した一般人が、モノの道理を理解した一般人がいなければルールを守れる一般人が、ルールを守れる一般人がいなければルールを守れない一般人が、それすらもいないということであればカタチばっかり坊主の人が、一番尊いのだ。

悪魔や外道のたぐいに比べれば、できの悪い坊主の方がまだマシなのだ。

みんな、色々と言いたいことがあるだろうが、仏教を存続させるためには仕方ないのだよ……」

つまり、近ごろの坊主のデキが悪いのを見てそれを嫌うというのは、当の仏さまの意志にもそむくことになるのじゃ。

たとえば、酒を飲んで酔っ払えば、目はクラクラして足はもつれ、ロレツもまわらなくなって正常な判断能力もなくなるのはお前さんもよく知っているじゃろ?

そういったデメリットがあることを知った上でも酒を愛するのが、真の酒好きというもんじゃ。

「酔っ払って失敗するからなぁ」と言って酒を嫌うのは、単なる酒嫌いであるに過ぎない。

―――――つづく


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