足利直義:しかし和尚、そもそも「あわれみ」とか「慈悲」の心というものは、実際に苦しんでいる人たちがいることを知って初めて生まれる感情ではないですか!
それなのに、「そういうのはダメ!」というのはまた、なんででしょうか?
そもそも「『人々』もマボロシだし、『苦しみ』なんて実在しないし・・・」などということになれば、「慈悲」の心など起こりようもないのではないですかね?
夢窓国師:いやいや・・・
例えばじゃな、ひとくちに乞食といっても「そもそも生まれつき貧乏で、それからもずっと引き続き貧乏」というのと、「本来は金持ちだったのだけれども、がっくりと落ちぶれて貧乏」というのの二種類あるが、これのどちらが「より可哀そう」であるかと言えば、それは「本来は金持ちであった」ものの方だとは思わんか?
「菩薩の慈悲」というのはつまり、そんなようなものなのじゃよ。
本当のことをいえば、仏と菩薩と世界中の人々は、全て同じものじゃ。
一心同体であるといってもよい。
だからもはや、「生」もなければ「死」もないのじゃ。
生死が存在しない以上、もはや「苦しみ」も存在しない。
であるにもかかわらず、ありもしない「生」や「死」が存在するとカンチガイして苦しんでおる。
これでは、「本来は金持ちだったのに落ちぶれて貧乏」しているのと変わらない。
本当の慈悲というものは、それに触れた時に生じるものなのじゃ。
あとさき考えずに、やたらと「可哀そう」がるだけなのとは全然違う。
<第十四問 続・本当の「慈悲」とは? 完>
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