足利直義:しかし和尚様・・・ もしもそんな恐ろしい悪魔のしわざが自分の身に起こったとしたならば、いったいどうやって対処したらよいのでしょうか?
夢窓国師:わははっ、なにをビビっとるんじゃ。(笑)
悪魔と戦う方法なら、山盛り伝えられているから心配するな!
例えば、こんなのはどうじゃ。
「究極の真実」というものは、既に全ての生き物に備わっている。
それは既に完成しており、それぞれに優劣なく完全に平等である。
そしてそれは、今も昔も変わらないのだ。
ということがちゃんと理解できておれば、たまたま人よりもイケているように思えることがあったとしても、そんなものは単なるカンチガイであることがわかるハズじゃ。
ワシの先輩は、かつてこんなことを言った。「ニルヴァーナ(涅槃)の境地だって? そんなもの三つにぶった切ってやるぜ!」
わかるか?
自分のことを徹底的に信じることができるようなヤツであれば、ブッダが駆使したような超能力に憧れることなどないし、肥溜めでうごめくウジ虫が取るにならないものだと思うこともないのじゃ。
もしも、身体に修行完成者に特有の兆候が現れたり、後頭部が光りだしたりしたとしても、全然おどろいたり感心したりする必要はない。
・・・というような気持ちを持ってみろ。心の中の悪魔も外の悪魔も、まるで手が出せなくなるハズじゃから。
昔、中国の道樹禅師が、弟子たちにこんな体験談をしたそうじゃ。
「ワシが昔、三峰山にこもって修行していた時のことじゃが、なんだか見たことのない服を身にまとった怪人が、ワシの庵のまわりをしきりとウロつくようになったことがある。そいつは、ある時は仏や菩薩のような姿になり、また天人や仙人のような姿になり、光ったり、聞いたこともないような言葉でしゃべったり、実に色々な嫌がらせを仕掛けてきた。そしてそれは、なんと十年間も続いたのじゃが、そのうちにいなくなってしまった。この悪魔はワシの修行のジャマをするためにアレコレとやったわけなのじゃが、ワシが全く相手にしなかったため、とうとうあきらめたというワケじゃ。悪魔の嫌がらせの種類は、果てしないように見えても実際には限りがある。ワシが「スルーする」ことには限りがない。だから悪魔はワシに勝つことができなかったのじゃ」
―――――つづく
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