・・・・心理学者はゾッとしながら悪魔の話を聞いていた。
心理学者はその時、自分の左脳に悪魔が侵入していく気がした。
危険を察知した心理学者は悪魔の独房を出た。
このインタビューの模様を世界に伝えるべきだろうか?
しかし、それはもしかしたら悪魔のシナリオどおりなのかもしれない。
研究チームは会議を重ね、
その結果研究チームのメンバーである神父が悪魔と対決する事となった。
やはり最後は科学ではなく神頼みか、と学者達はため息をついた。
しかし悪魔と対決するには学者達はあまりにも左脳型の人間なので、彼ら学者が悪魔に近づくのは危険だと考えたのだった。
神父が悪魔の居る独房のドアを開けると、悪魔はまだ新聞を読んでいる所だった。
悪魔は神父を一目みると、今度の敵は手強い、と感じた。
しかし悪魔はこのタイプの人間と何千年も戦ってきたのだ。
宗教家というのは、100パーセント右脳型の人間なのだ。
つまりロジックに欠け、迷信深い。
その迷信深い所を攻撃すれば、この神父も落とせるはずだ、と悪魔は考えた。
しかし最初口火を切ったのは神父だった。
「やあ、悪魔君。貴様が現れてから随分と世の中には残酷で陰湿な事件が増えたな」
「ごきげんよう、神父さん。ようやく戦いがいのある相手を送ってきた、という訳ですね」
「そういう事だな。長年神父をやっていながら一度も神に出会っていないのに、まさか生きて捕らえられた悪魔に対面するとはね」
神父の話を聞きながら悪魔は危機を感じていた。
悪魔はこの神父にユーモアのセンスを感じたからだ。
ユーモアがある、という事は左脳が発達している証拠なのだ。
右脳と左脳がバランスよく発達した人間は悪魔が最も恐れる敵だった。
迷信深い人間であれば、迷信を利用して彼を狂気の世界へと追い込む事が出来るからだ。
右脳型の芸術家は悪魔と対面するとその殆どは狂気の世界に落ちていく。
しかし今回のこの神父は手強い相手だった。
冷や汗を流しながら悪魔は神父に聞いた。
「神父、あなたの武器はなんですか?」
「直感、だな」
「直感?」
「そう、直感だ。私は他の学者のようにお前の理屈には耳を傾けんぞ。私はお前が何を言おうとお前の言葉は何も信じんよ」
「直感、なんて何の役に立つというのです? 人類がここまで進歩してきたのは私が居たからではありませんか? 悪魔が科学や文化を発展させてきたのです」
「それは嘘だな。貴様がやってきた事はこの世に憎悪の連鎖を植え付ける事だろう」
「憎しみがあったからこそ、人類は過酷な自然に立ち向かい文明を発展させる事が出来たのでは?」
「嘘をつくな。全ての生命の本質とは自尊心だ。自尊心とは愛だ。愛こそが生命の本質なのだ。貴様の言う憎しみとは生命の持つ怒りとは区別される物だ。それは子供ならば誰でも知っている事ではないのかね? 貴様がまだ小さい子供に取り憑けないのは、子供がその本質を知っているからだろう。憎しみとは人間の自意識の中にしか存在しない。貴様は人間の生み出した幻想にすぎないのだよ」
それを聞いた途端、悪魔は青ざめた。
悪魔の存在を神父が否定しようとしているのだ。
「神父さん、あなたは本当に聖職者なのですか? あなたはまるで唯物論者のような事を言う。悪魔である私を否定する、という事は貴方の信じる神も否定する、という事なのですよ!」
「神も悪魔も実在するとも。心の中にね。しかし私の直感によると、貴様は本当は悪魔ではないな」
「なんですと?! 私が悪魔でないとすれば私はいったい誰なんです?」
「きっと貴様自身知らなかったかもしれないが、貴様を突き動かす悪のエネルギーはまた別のエネルギーに支えられているのだろうな」
「・・・・・それはいったい何のエネルギーなのです?」
「『悪魔』というのは貴様の仮面に過ぎないのだろう。貴様の本当の名前は『孤独』なのだよ」
悪魔は神父のその言葉を聞いた途端、孤独になった。
孤独になった悪魔は自分の正体を知り涙を流し始めた。
「そうだった・・・・・・。私は実は孤独だったのだ。何千年も私は孤独だったのだ」
「そう。貴様は何千年分もの人類の孤独が結集したエネルギー体なのだ。愛が信じられなくなった貴様は強くなる為に『悪魔』という役割を演じるようになったのだ。私は貴様を憐れむよ、心から」
神父が「悪魔」だった「孤独」にそのように言うと、「孤独」は次第に姿が透明になり、完全に消え失せてしまった。
不思議な事に「悪魔」だった「孤独」が消え失せると、人々の記憶からも悪魔の記憶が消えたのだった。
まるで何事もなかったかのように、人々は悪魔の出現の事を忘れてしまったのだ。
ただ一人、悪魔と対決した神父だけは彼の事を記憶していた。
とても不思議な事だったが、きっと悪魔はいつもこのように人々の前に現れそして消えていくのだろう。
この次に悪魔が現れる時には悪魔はどのような姿で人々の前に出現するのだろうか?と神父は考えた。
――――完
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