今年は外国映画の佳作が相次いで公開される。数が多くて、紹介しきれないくらいだ。もう公開は終わってしまったかも知れないが、名前だけでも記憶して、再上映があったりＤＶＤが出たりしたらご覧になってほしいと思う。
「セールス・ガールの考現学」監督：ジャンチブドルジ・センゲドルジ 出演：バヤルツェツェグ・バヤルジャルガル他
まず、普段中々見ないモンゴル映画の佳作「セールス・ガールの考現学」。モンゴル映画を劇場で見たのは初めて。新鮮だった。ウランバートルの女子大生の日常を描き、クスクス笑えて、後味もいい青春映画だ。
親の意向であまりやる気なく原子力工学を専攻した主人公は（モンゴルはウランの埋蔵量が世界一）は、友人に頼まれてアダルトショップでバイトを始めることになる。店で品物を販売したり客に注文品を届けたりする。最初はちょっとウブでおっとりしているが、海千山千の年増の女性オーナーと出会う。
このオーナー、若い頃はダンサーを夢見てロシアで暮らしたこともある。面白い過去を生きてきて様々な人生経験をして、派手な見かけと違い意外や言葉の重みがある。「自分が生きたいように生きろ」と言うのだ。主人公の女の子は、やがて、ある心の傷も乗り越え、新しい人生の一歩を生み出す。そこがいい。
ちょっとエロくてユーモアあるシーンもある。場内、私だけ品なく爆笑してたなあ。主役の女子大生が、内藤洋子（ちょっと古い）や芋生悠に似ている。段々、奇麗になっていくところも演出か。
街の団地や大学や目抜き通りも映る。草原というモンゴルのイメージが更新された。
「不思議の国の数学者」監督：パク・ドンフン 出演：チェ・ミンシク キム・ドンフィ他
次に、韓国映画「不思議の国の数学者」。進学校で落ちこぼれかけた高１の男の子が、守衛のオジサンに数学を教えてもらうことになる。似たような設定のアメリカ映画「グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち」を思い起こすが、この映画が素晴らしいのは、その守衛が脱北して来た立派な大学の数学者であったということだ。現実にありえぬ話ではなかろう。
北との関係だけでなく、韓国の激しい受験事情も映画に反映している。男子高校生は数学の試験のカンニング疑惑を持たれ窮地に追い込まれる。その解決を図るために、守衛のチェ・ミンシク（「オールド・ボーイ」等を演じた韓国の名優の一人）が学校の講堂に乗り込む展開がとてもいい。教員や生徒を前に見事に感動的な演説をするのだ。
また、映画は数学の楽しさに溢れるのがいい。円周率の数字に合わせてピアノの音楽が美しく流れるハッとするようないいシーンもある。数学と音楽は近しいのである。
「パリタクシー」監督：クリスチャン・カリオン 出演：リーヌ・ルノー ダニー・ブーン他
好きな映画をもう一本！ フランス映画の「パリタクシー」だ。
品のいい老婆がタクシーを呼び、これから人生最後の住処である施設に入るので少しパリの街を廻ってくれと運転手に頼む。そこから始まるドラマだ。見る前は爽やかな人間ドラマだろうと思っていたら、予想に反して、彼女の人生が語られる部分はなかなか重く暗い。しかし、見終わると、だからこそいいのだと思った。
私には何となく、第二次世界大戦の後、戦勝国として、フランスのパリに暮らす人々は皆が幸せな人生を享受してきたのだろうという思い込みがあったのだが、それは私の無知から来る誤解だった。
この92歳という主人公は、若い頃、パリ解放にやって来た米兵と恋に落ち、子供を産み、そして米兵はアメリカに帰国した過去を持つ。日本だけでなく「戦争花嫁」はいたのだ。それだけではなく、再婚すると家庭内暴力があるし、何と、ベトナム戦争（戦前フランスはベトナムを植民地にしていた）にまで人生が繋がっていく。この女性はそんな苦労の人生を生きてきたのだ。フランスの戦後史の一面を知ったがゆえに、私は初めて、何だかフランス人に愛しい感じを抱いてしまった。
一方、年齢が老婆の半分である46歳のタクシーの運転手も、1日12時間の労働をしなければいけないし、家庭的にも問題を抱えている。最初は無愛想に見えたこの運転手も気がいいところもあり、夕方は一緒に食事をして、老婦人にご馳走してあげる。映画は、終盤、劇的な展開があるのだが、それは伏せておく。
この高齢の女性を演じたのは、リーヌ・ヌローという国民的シャンソン歌手だ。YOUTUBEで聞いてみたが、甘やかなお声であり、いっぺんに魅了された。
車が走る時、凱旋門やエッフェル塔、5年前に火災に遭い現在修理中のノートルダム寺院も映る。それも楽しい。中高年女性から賛美の声を沢山聞いている作品だ。
（by 新村豊三）