今年も快調な外国映画「リアル・ペイン ~心の旅~」「ザ・ルーム・ネクスト・ドア」「TOUCH/タッチ」

今年も洋画が面白い。実はこの数年は日本では邦画の方が沢山見られている。昔の「洋高邦低」の時代ではないのだ。字幕を読むのが面倒くさいとか、特にアメリカ映画で人気トップスターが現われない(トム・クルーズや、キアヌ・リーブスも年を取って来た)とか、そもそも特に若者が外国に関心を持たなくなってきている、といった指摘がある。ネットに外国のことが溢れているから、わざわざ映画館に足を運んでみようという気にならないのかも。

それはさておき、最近の洋画の傑作秀作を紹介したい。まず、アメリカ映画「リアル・ペイン ~心の旅~」

監督:ジェシー・アイゼンバーグ 出演:ジェシー・アイゼンバーグ キーラン・カルキン ウィル・シャープ他

監督:ジェシー・アイゼンバーグ 出演:ジェシー・アイゼンバーグ キーラン・カルキン ウィル・シャープ他

これは良かった、面白かった。チラシのイメージと全然違う。チラシの肩を組んだ男二人は仲の良い従兄弟同士なのだ。NYに住む40代のポーランド系アメリカ人でユダヤ人の二人が、苦労した祖母の出身地のポーランドを訪れるツアーに参加する。
そのツアーの参加者が6人いるが、撮り方や演出がいいので、まるで自分が7人目の参加者になったみたいな感じがする。脚本監督は早口でナーバスな演技に秀でるジェシー・アイゼンバーク。彼自身がポーランド系アメリカ人で従兄弟の一人を演ずる。

ツアーはポーランドがナチから迫害された歴史を辿るわけだが、この映画が素晴らしいのは、単にその「ナチ迫害もの」の定型を踏んでないこと。いや、ナチの蛮行に関しては、昨年の「関心領域」以上の優れた訴求力を持っている。しかし、より大きなテーマである、現代アメリカを生きる二人の屈折が滲み出て来るのが素晴らしい。性格も立場も違う二人が共にいろいろ問題を抱え悩んでいるのだ。それが、自分にもよく分かる。人間くさくユーモラスでヒューマンなのだ。
一人が、いい加減に見えて、結構、真実を衝く発言をする。この役のキーラン・カルキンが、中々いい。アカデミーの助演男優賞を取れるのではないか。何と、この俳優、「ホーム・アローン」(1990)のマコーレー・カルキンの弟だった。
全編、ポーランドを代表するショパンのピアノが流れるのもいい。時に優しく、時に情熱的に。映画の内容にぴったりだ。上映時間90分。一瞬たりともダレない。

次はスペイン映画「ザ・ルーム・ネクスト・ドア」。大好きなペドロ・アルモドバル監督が、アメリカの実力俳優を使い、ニューヨークを舞台に安楽死(そして、もうひとつ言いたいが敢えて秘す)をテーマに撮った作品。シナリオも彼。

「ザ・ルーム・ネクスト・ドア」監督:ペドロ・アルモドバル 出演:ティルダ・スウィントン ジュリアン・ムーア他

「ザ・ルーム・ネクスト・ドア」監督:ペドロ・アルモドバル 出演:ティルダ・スウィントン ジュリアン・ムーア他

ニューヨークに住む末期がんに罹った女性(ティルダ・スウィントン)が、自分が安楽死をするのを、隣の部屋にいて見守ってくれないかと、旧知の友(ジュリアン・ムーア)に頼み実行しようとするストーリーだ。演出も落ち着いて成熟、かつサスペンスがある。「死生観」のみならず、インテリアメリカ人の現在に対する世界観も提示される。ジョン・ヒューストンの 「ザ・デッド/「ダブリン市民」より」(1987)という映画も効果的に使われる。マンハッタンの街も、別荘のある山の中も撮影がいい。音楽も格調ある。女優二人ともいいが、ティルダ・スウィントンの存在感が光る。

好きな映画をもう一本! せっかくの秀作なのに、宣伝が少ないのか、ほとんど話題にならなかったのがアイスランド映画「TOUCH/タッチ」だ。
アイスランドに住む初老の男性クリストファーが若い頃ロンドンに住み、その時愛し合ったが忽然と消えた日本人女性の行方を捜して、コロナ禍の日本にやってくる数日間の話である。

「TOUCH タッチ」監督:バルタザール・コルマウクル 出演:エギル・オラフソン Kōkiほか

「TOUCH タッチ」監督:バルタザール・コルマウクル 出演:エギル・オラフソン Kōkiほか

ビートルズが流行している60年代、名門ロンドン大学に学ぶクリストファーは大学を中退して、日本料理店でバイトを始める。日本語を習ったり料理を手伝ううちに、店長(本木雅弘)の娘ミコと愛し合うようになる。
こう書くと、「通俗的」と捉えられそうだが、あっと驚くストーリーになる。二人の純愛に「ヒロシマ」、つまり原爆の被害が絡んでくるのである。

クリストファーが来日してから、ミコの消息を追う過程で、過去と現在、交互に描かれる語り口が巧妙だ。中々真相が明らかにされない。いい意味での「じらし」を感じつつ画面を見つめることになった。
終盤、舞台が広島になるのだが、登場する役者が素晴らしい(物語に関係するので敢て、伏せる)。ある女性の台詞回し、品性が生きて来た年月の積み重ねを感じさせて存在感が抜群。この俳優たちの演技が物語に説得力を与えている。

(by 新村豊三)

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