将棋ストーリー「王の腹から銀を打て」第35回

トモアキは眠れなかった。ジュンに対する怒りと自分に対する怒りで、心がこわれたバイオリンみたいにギイギイ鳴った。

トモアキは4級になった。数ヶ月前まで負けてばかりだったジュンに、勝ち越せるようになった。それがどれほどうれしかったか、他人にはわからないだろう。
(ぼくはどんなに負け続けでもやめようなんて思わなかった。それなのにジュンは、自分が負けるようになったら逃げるのか?)
ひきょう者め。ジュンを責める声はそう言っていた。
(でも、ジュンはつらかったんだ。負けるのはつらいんだ。ぼくはもう少しジュンの気持ちがわかってもよかったはずなのに)
あんなひどいことを言ってそれでも友達なのか? 自分を責める声はそう言っていた。
トモアキは歯をくいしばった。長い長い夜だった。

水曜日、将棋クラブにジュンは来なかった。
「あれ? 給食まで、いたのに」
アサ子がふしぎがった。そういえばこの数日様子がへんだったともアサ子は言った。トモアキは聞こえないふりをした。

翌日、トモアキの教室にアサ子が呼び出しに来た。
「林、ちょっと」
アサ子は屋上へ上がる階段のおどり場に行った。
「小松に聞いたよ。あんたがやめろって言ったんだって?」
だいぶ話が省略されている。
「ジュンがやめたいって言ったんだ」
「止めるのが普通じゃない?」

アサ子はトモアキの言葉が終わるのも待てないようにかぶせてきた。完全に責めてる口調だ。トモアキは何も言う気がしなくなった。
「わからないのよ。どうしてこんなことになるの? あとひと月ってときに。小松がいなきゃわたしたちも出られないでしょ? 代わりなんていないのよ。あの五人で勝つためにやってきたんでしょ。ぜんぶ台無しじゃない。なんで止めなかったのよ?」

何も知らないくせに勝手なことばっかり……。
「小松にあやまりなさい」
「いやだ」

――――続く

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