別訳【夢中問答集】第六問 祈りはかなうか? 2/5話

そもそも仏や菩薩の「本当の願い」は何かといえば、それは悩める人々に「真の救済」を与えることではなかったか。冷静に考えてみると、我ら人間たちが神や仏に「お願い」することの内容は、たいがいしょうもないことばっかりじゃ。そんな愚にもつかない願い事を片っ端からかなえてまわるのが、果たして「真の救済」と言えるじゃろうか?

くだらない願いはかなえてやらない。その方がそいつのためになるからじゃ。

なんでもかんでも願いをかなえてやったら、人間どもは調子に乗ってやりたい放題になるばかりだとは思わんか?

まぁ、アホウな人間どもが自暴自棄にならないように、たまには願いを聞いてあげることもあるかも知れんがな。

つまり、「霊験がない」ことこそが、真の「霊験」であったということじゃよ。

神仏に「祈ってもかなえられない」ことを恨むというのは、譬えるならこういうことじゃ。

ある人が病気になって医者にいったら苦い薬を飲まされ、熱い灸をすえられたとしようじゃないか。そしてそいつは、こう文句をたれるのじゃ。「オレは苦しみから逃れたくて医者のところに来たというのに、さらに苦しい思いをさせられた! 医者ってヒドイ・・・(泣)」とな。

もちろん医者がヒドイのではなく、患者がひねくれているだけなのは言うまでもない。

いろいろなお経の最後の方には、たいてい「流通分(るつうぶん)」と呼ばれる章がついておる。ブッダを取り巻く様々な神々とか菩薩とかが口々に「このお経はサイコー!」などと絶賛し、「我らは皆、このお経を信じる人に味方する! 災難にはあわないように、病気にはならないように、お金がもうかるようにしてあげる!」などと宣言するアレじゃ。

これはつまり、マジメに努力しようとする人を励ましているのであって、決して不マジメなひねくれ者が仏教そっちのけで世間的な名誉や富を追い求めるのを手伝おうというわけではない。

・・・そう考えていくと、今の人たちの「お祈りがかなわない」などというのは、至極当然のことじゃな。

ある人が清水寺にお参りに行ったところ、一心不乱にお祈りしている年寄りの尼さんを見かけたそうじゃ。

その尼さんが「ああ、観音菩薩さま、私の心を苦しめるあの忌まわしいものを一刻も早く消滅させてくださいませ!」などと口走っているのを聞き、「その『忌まわしいもの』って、いったい何ですか?」とたずねたところ、なんでもその尼さん、若い頃からビワの実が大好物だったのじゃが、どうにもタネが多くて食べにくいのでいつもムカついていたのじゃそうな。で、毎年五月になると清水寺にやってきて、「ビワのタネよ、なくなれ!」と念じ続けているのだと。で、「でも、まだ祈りの効果があらわれないのよ・・・」、と嘆いていたと。

ビワを食べる時にタネがジャマだというのは誰でも思うことじゃが、なにも清水寺まで来てお祈りするほどのことか! とその人は苦笑いしておったよ。

さてそれでは世間の人たちはどうか?

大勢でお寺や神社に押しかけて、お経や祝詞を唱えてみたりして、いったい何を必死にお祈りしているのかと思えば、「金が欲しい」とか「偉くなりたい」とか「長生きしたい」とか、そんなのばっかりじゃ。これはつまり、ベラボウな大金持ちの家にやってきて、「ティッシュペーパーを一枚いただけませんか?」とお願いするようなもんじゃな。その程度のものなら、なにもわざわざ大金持ちのところに頼みに行くまでもないっちゅーの!

ただ、世間一般の金持ちどもはケチだから、いきなり高価なものをよこせといっても成功する確率はきわめて低い。だから仕方なく、まずはしょうもないものからお願いする、ということもあるじゃろう。しかし、仏や菩薩たちをそんな連中と一緒にしてはいかんな。仏や菩薩たちは、果てしなく「太っ腹」なのじゃから。せっかく大盤振る舞いしようと思って待っていてくれる仏や菩薩に対して、実にしょうもないものをお願いするばかり。ビワのタネの消滅を祈る尼さんのことを笑う資格はないよなぁ・・・

―――――つづく


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