別訳【夢中問答集】第十五問 加持祈祷の真意とは? 1/3話

足利直義:そういうものなんですかね・・・

ところで和尚、真言宗には「加持祈祷(かじきとう)」という必殺技があって、呪文や儀式などによって人々の苦しみや災難を「エイッ!」とばかりに打ち払うことができるのだとか。

禅宗は何だかわけのわからないことを言うばかりで、そういうわかりやすいのがないからちょっとね・・・ などと悪口を言っているヤツがいるのですが、これはどうなんでしょうね?

夢窓国師:まったく、アホウの相手は疲れるわい・・・

真言宗などのいわゆる密教では、「この世に善悪は存在しない」と説く。つまり、「この世のありとあらゆるものは、大日如来そのものなのだ」という理屈じゃな。

さて、そういうことであれば、「賢い」とか「賢くない」とかの区別はなく、「金持ち」や「貧乏」、「勝った、負けた」などということはもちろん、「苦しい」とか「楽しい」とか、「幸せ」とか「不幸せ」とかの区別もないということになるハズじゃ。

だというのに、呪文や儀式によって、いったい何を求めたり打ち払ったりしようとするのじゃ?

ああいう「わかりやすい」手段というものは、ものごとについて考えようともしないバカタレの注意を惹きつけるための演出に過ぎないのじゃよ。

で、彼らがやってくれるというから、我ら禅宗ではそういったまわりくどい小芝居は全部抜きで、「そのものズバリ」を示すことにしているのじゃ。

「そのものズバリ」とは何かって?

つまるところ「生」とか「死」とかの区別は成立しないことを理解し、受け入れる。それが真実の「延命の秘法」じゃ。

つまるところ「災い」とか「病気」とかは実在しないことを理解し、受け入れる。それが真実の「息災の秘法」じゃ。

つまるところ「金持ち」も「貧乏」もないことを理解し、受け入れる。それが真実の「増益の秘訣」じゃ。

つまるところ自分と他人は区別できない、つまり憎んだり恨んだりする「敵」は存在し得ないことを理解し、受け入れる。それが真実の「調伏の秘法」じゃ。

つまるところ「愛」と「憎」は同じものであることを理解し、受け入れる。それが真実の「敬愛の心」じゃ。

これらがちゃんとわかっている人には、いまさら怪しげなオマジナイの類は不要なのじゃよ。

「禅宗には苦しみや災難を打ち払う手段がない」などとは、トンデモナイ言いがかりじゃ!

もう一度言うが、加持祈祷はバカタレを振り向かせるための演出に過ぎん。

世の中のすべての人々は、燦然と光り輝く御本尊=大日如来と同一であるというのに、ちっとも理解しようとしない。

でもそのままじゃかわいそうだから、というのでやって見せているのが、つまり加持祈祷じゃ。

―――――つづく


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