別訳【夢中問答集】第十七問 政治と宗教は分離すべき? 2/3話

いいか?

どんな金持ちも貧乏人も、人間に生まれてきたという一点をとってみれば、全員等しく前世で宗教的善行を積んだことに違いはない。

それではなぜ、貴賎の差が生まれたのかといえば、前世における善行のレベルに差があったからに他ならない。

例えば今、中央政府で役人をやっているような連中は、相当に前世での善行レベルが高かったものと考えられる。

しかし、役人の中には反社会的行為で捕まるようなヤツもいるし、本当に国のことを考えている人たちばかりかと言えば甚だ心もとないというところを見れば、前世の善行はまだまだ足りなかったのではないか、と思いこそすれ、「善行なんてやめちまえ」などという考えになるというのは、ワシはどうかと思うぞ。

元弘の乱からこっち、オマエさんたちの軍事政権がどれだけたくさんの罪を重ねてきたか、胸に手を当ててよく考えてみるがいい。

これまでにやってきた宗教的善行で足りていると思うか?

数々の戦乱で、どれだけ多勢の人を「敵」として殺してきたか覚えておるか?

殺された人たちの家族の気持ちを考えたことがあるか?

敵ばかりではない。

味方で戦死者を出しているのも同じことじゃ。

父が死んで子が残ったものがある。

逆に子が死んで父が残ったものがある。

そんな例はそれこそ無数にあるのじゃ。

せめて恩賞でも賜れたなら、まだ残された者の気持ちも救われるのじゃろうが、元から無名で中央と縁がないような人々は、戦死するまでにどれだけ活躍したところで、それを中央に報告する手段がないので全部泣き寝入りを余儀なくされておる。

だいたい、オマエさんたちのような軍事政権下で「昇進した」などというヤツは、要するに「人よりもたくさんの人を殺した」ということとイコールじゃ。
数々の戦乱に巻き込まれ、神社や寺はもちろんこと、どれだけたくさんの民家や商店などの建造物が破壊されてきたことか!

戦乱のたびに寺を本陣として収奪し、周辺住民を全部追い払って路頭に迷わす。なんと罪深いことだとは思わんか?

戦乱が終われば仁義の徳政が行われるかと思えば、ちっともそんなことにはならずにそのまんま放置。

今の世の中がなかなか治まらないのは、ひとえにそれが原因なのじゃ。宗教活動のせいなどであるものか!

みなの心をひとつにまとめて正しい方向へ導くことができたなら、この世界はたいして時間をかけることもなくパラダイスとなることじゃろう。

少なくとも「治まらない」などということがあるハズがない。

宗教活動以外でそれができるというなら、やってみろというのじゃ!

―――――つづく


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