別訳【夢中問答集】第二十三問 魔境を避ける方法はあるか?

足利直義:そうは言ってもですね・・・

酒飲みは、「自分が酔っ払っている」ということにはなかなか気づかないものです。

それと同じように、既に悪魔に憑りつかれて魔境に入ってしまった人は、もう「あっ、オレ、ひょっとして魔境に入ってる!?」といった具合に気づくことは不可能ではないかと思うのです。

もしそうだとしたならば、せっかく事前に悪魔と戦う方法を習っておいたとしても、結局ムダになってしまいます。

何か初心者向けの用心として、そもそも魔境に入らないで済むような方法はないものでしょうか?

夢窓国師:あのな、「魔境を恐れて、入らないで済む方法を求める」などという気持ちを起こすこと自体が、既に「魔境」なのじゃ。

ナーガルジュナ(龍樹)が、「意識した途端に悪魔の網の中。意識しなければそこは悪魔の網の外」と説いたのは、つまりそのことじゃな。

ワシの尊敬する先輩は、こんなことを言っておった。

「悪魔は心にしかつけ込めない。だったらそんな心なんて放っておけ! それこそが「降魔の秘術」じゃ」

先に挙げた道樹禅師のエピソードは、つまりそれを実践したわけじゃな。

「仏の世界を愛する」こと、それは「魔界」とイコールなのじゃ。

「仏の世界」はもちろん、「魔界」すらも忘れた時、そこには「仏の世界」がある。

本物の修行者というものはこの理屈を知っているから、「仏界」も愛さないし「魔界」も怖れない。

して「これをしたら何か得るものがある」などという気持ちすら捨てて、かつウンザリしてやめてしまうこともなく、淡々と修行を続けるのじゃ。

そんなヤツの前では、様々な障害など全て無いのと同じじゃ。なんの怖れることなどあるものか!

また、円覚経には次のように書かれておる。

「末世に生きるものたちよ、自らも円満な智慧を持って、互いに尊敬できる人たちとともに、様々な障害を消滅させて進みなさい。そしてキレイサッパリとした解脱の宝殿に昇るのです」

すべからく初心者たるもの、この「円満清浄」の大願を持つべし。

それさえできれば、神や仏が護ってくれるのはもちろんのこと、悪魔の方から離れていき、やがて必ず「二度と引き返すことのない」境地に到達できることを、ワシが保証するよ!

<第二十三話 魔境を避ける方法はあるか? 完>


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