歌の力が素晴らしいアメリカとマレーシアの映画「SING/シング」と「タレンタイム~優しい歌」

信頼する映画仲間に勧められて見たのが「SING/シング」だ。新宿の映画館は若い女性たちや若いカップルで一杯。最初は場違いな所に来た感じが若干したが、映画は面白い。

「SING シング」監督:ガース・ジェニングス 声の出演:マシュー・マコノヒー リース・ウィザースプーン他

「SING シング」監督:ガース・ジェニングス 声の出演:マシュー・マコノヒー リース・ウィザースプーン セス・マクファーレン スカーレット・ヨハンソン他

取り壊し寸前の劇場で歌のオーディションを行い、選ばれた歌手たちが一夕、コンサートを開き大好評を博するストーリーだ。
人間のお話ではなく動物の話で、劇場支配人はコアラだし,歌い手たちが豚や象、ゴリラなどだ。アニメだが出てくる動物は立体感があるし、画面の展開がものすごくスピーディーだ。
疲れがたまっていて途中若干寝てしまったが(すみません)、歌に魅了された映画だった。特に私が好きなビートルズの「ゴールデンスランバー」というシブい歌が何度も歌われ、往年の名曲「マイ・ウェイ」も朗々と歌われなかなか聞かせる。
とにかくアニメであっても、アメリカはエンターテインメントに優れた国であることを実感させる作品だ。童心に帰れる人にはもってこいの作品だろう。

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さて、好きな映画をもう一本紹介したい。「タレンタイム~優しい歌」だ。
実は初めて見たマレーシア映画だが、マレーシアのある高校で「タレンタイム」と呼ばれる音楽コンクールが開催される。映画ではその大会に参加する高校生、またこれに関わる生徒とその家族の話が描かれる。

テーマは人を好きになること、友情、死といったことだ。つまりは青春を生きる若者の普遍的なテーマと言っていい。
そこに、多民族国家であるマレーシアの特殊な事情が重なる。よく知らなかったのだが、この国はマレーシア人、インド人、華人などの混成国家であるため、宗教や物の考え方が違っていて、言わば「民族の壁」が存在する。そのため、「タレンタイム」に参加するピアノの上手いマレーシア系のイスラムの女の子とインド系のヒンドウー教の男の子がお互いに惹かれあうが、その「壁」に突きあたったりする。
この男の子には聴覚障害があって話すことができないのだが、夜に、寝ている姉を起して、ねえ、人を好きなるってどういうことと尋ね、姉が手話で応答するシーンの情感には心打たれた。
また、ギターの弾き語りをするマレー系の男の子には入院して闘病生活を続ける母親がいる(その母親の言葉も人生の重みを感じさせる) というように、いろんな子が、いろんな家庭がそれぞれの事情を背負って今の時代をしっかり切なく生きていることを実感させる。そこがいいと思う。

映画「タレンタイム 優しい歌」監督:ヤスミン・アフマド 出演:パメラ・チョン マヘシュ・ジュガル・キショール

「タレンタイム 優しい歌」監督:ヤスミン・アフマド 出演:パメラ・チョン マヘシュ・ジュガル・キショール モハマド・シャフィー・ナスウィップ

この映画で好きなところは、やはリユーモアがあることだ(いつもこの視点で申し訳ないが)。脇の人物、例えば学校の陽気な先生、ちょっと品が無いが冗談ばかり飛ばすピアノの子の父親、イギリス人の祖母など人間味のある人たちが沢山登場する。この上品そうな祖母が会話で突然「dick」(イチモツ)なんて言い出して大笑いを誘ったりする。
そして、全体のタッチや映画の持つ感触がとても優しいのだ。大家族が出てくるし家族の結びつきが強いから、アジア的な温もりと優しさといえばいいだろうか。
素直な演出もいい。この女性監督はシナリオも書いているが、気の毒なことにこの作品を遺作として51歳で亡くなっている。

最後だが、この映画の音楽の素晴らしさに触れたい。何回か流れるドビュッシーの「月の光」が無条件に美しい。様々な人間の営みに天から優しい慈愛をそそぐかのように、効果的に使われている。
また、高校生が歌う唄が素晴らしい。特に「Angel」という愛の想いを伝える曲がいい。マレーシア在住のピート・テオの作詞作曲である。見終わって数年ぶりに映画のサントラを買いもとめ、家で繰り返し聞いている。
何年かに一度出会える「宝物のような映画」と形容してもいいだろう、それくらい好きな映画だ。

「SING/シング」公式サイト
「タレンタイム~優しい歌」公式サイト

(by 新村豊三)

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