湯布院映画祭で見た快作「17歳は止まらない」、秀作「神田川のふたり」、傑作「片足のエース」

48回「湯布院映画祭」のテーマは「青春・部活映画」。昭和8年のモノクロ映画「大學の若旦那」から今年の「17歳は止まらない」まで、このテーマの映画10本が上映された。全部面白く見たのが、3作を紹介したい。

「17歳は止まらない」監督:北村美幸 出演:池田朱那 片田陽依ほか

「17歳は止まらない」監督:北村美幸 出演:池田朱那 片田陽依ほか

まず、快作「17歳は止まらない」。ポスターやチラシから分かるように、農業高校の畜産科で学ぶ女の子たちの青春を描く映画だ。日頃家畜の世話をし、仔牛の出産に立ち会い、鶏の屠殺も経験する。

池田朱那(あかな)演じる高2のヒロイン瑠璃は男の子に付き合ってくれと言われるが、担任ではない教科担当の森先生(中島歩)が大好きだ。
途中までは、イメージ通りの普通の青春映画だと思っていたが、この映画は違うのだ!瑠璃が森先生に対してストーカー的と言いたい程、積極的にアプローチして行く。ええっと驚く、その猪突猛進の元気の良さがとても面白い。
そしてここからは「言わぬが花」。言い寄られた森先生にも秘密があり驚きの展開が待っている。
ラストに瑠偉が川添いでバック転をするのも見事。高校生は本当にイキがいい。

よく出来たシナリオと軽快な演出だ。その脚本・監督は、これまでアダルトビデオの監督をしてきた60歳の男性新人監督北村美幸(かずゆき)。今回、東映ビデオのコンクールに応募し、北村美幸(みゆき)という名の女性が書いたと誤解されて入選したという面白い裏話もある。因みに、最初のタイトルは「17歳は感じちゃう」だった由(笑)。

監督:いまおかしんじ 出演:上大迫祐希 平井亜門ほか

監督:いまおかしんじ 出演:上大迫祐希 平井亜門ほか

次は昨年公開の「神田川のふたり」(2022)。見終わって幸福感を抱いた映画。
中学校の同級生だった高校生の男女が、友人のお葬式に出た後、晩秋の季節に、延々と神田川添いに公園を目指して歩くところから始まる。これが、驚きの、40分ほどの長回しなのだ。二人は自転車に乗ったり、自転車を押して歩いたりして、とりとめなくおしゃべりするだけである。

この映画がユニークなのは、リアルな世界とファンタジーの世界が混在することだ。例えば、コンビニに入るのに、建物がない。何もない空間で二人が手で開けるふりをする、すなわちドアが開くということを表すのだ。黒子が出てきてお団子などを渡したりする。他にも、神様?が出てきては、消えてしまったりする。幻惑されると言うより、自由な想像力に溢れ、映画的に面白いのだ。
端折ってしまうと、最後に男の子は女の子に好きだと伝える愛の話だが、それがとてもいい。いい年をした爺さん(私のこと)でも何か良さを感じるのだ。ここが映画の肝だと思うが、ラスト、黒子がある人物だったことが分かる。そこのさりげない演出が憎い。

上映後のシンポジウムで、いまおかしんじ監督が「映画は自由でいい。人が突然歌いだすミュージカルがそうであるように」と発言されたが、大いに賛同する。

監督:池広一夫 出演:高田直久 井川比佐志ほか

監督:池広一夫 出演:高田直久 井川比佐志ほか

好きな映画をもう一本! 大傑作の「片足のエース」(1971)。小児マヒで右足が不自由な高校生が野球部に入り猛練習を重ね地区予選を戦う映画だ。実話である。
部員も監督も、本当に全力で、厳しい練習に打ち込んでいる様子をドキュメントタッチで映す。その気迫。そのド根性。息苦しくなるほど。特に鬼監督井川比佐志が素晴らしい。「野球は人間性だ。生活を大事にするんだ」と言って指導する。決して部員を甘やかさない。戦争体験のある叩き上げの先生だろう。土の匂いのする、無骨な百姓顔(失礼)がいい。映画は選手や監督のアップが続く。

映画的にとりわけ感心したのは試合の展開。同点の12回裏、小児マヒの主人公が一塁から二塁へまさかの盗塁を仕掛け、三塁ランナーがホームに帰ってきて勝利する。画面は選手、ベンチ、そして応援席にいるハンディを負った施設の子供たちや看護婦さん(懐かし樫山文江)、家族を交互に映す。あの一体感。胸熱くなった。
その後、主人公は文通していた女の子に出会う(ああ70年代)。帰りのバスの中で、生徒がみんなで水前寺清子の「どうどうどっこの唄」を歌う。厳しい先生もこの時ばかりは歌う(題名失念)。あの高揚感。この一連の映像の流れはまことに見事。
そして我々の人生同様、次の試合で彼らは敗れ去る。だからこそいいのだ。

施設で小児まひの小さな男の子が、人の手を借りず、時間を掛け、苦労して服を脱ぐシーンがきちんと撮られている。これが、一度はヤケになって野球部を辞めそうになるのを踏みとどまる主人公の変化に説得力を与えた。

(by 新村豊三)

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