沖縄を巡るドキュメンタリー「戦雲(いくさふむ)」と「シン・ちむどんどん」

3月に観た映画だが、沖縄の基地問題を描く「戦雲(いくさふむ)」が秀作。

日本の軍事に関して沖縄の現実を知ることが出来た。
日本の最西端の島、与那国島が「要塞化」されている。自衛隊が駐屯し、人の住めなかった土地が整備され建物が出来、物資が運び込まれる。戦車が町中の車道を走っていく。その後、ミサイルが配置される。島民避難計画の説明会まで開かれる。住民投票で自衛隊基地を受け入れた後、国や防衛省が約束をたがえ、一方的にジワジワと施設を作り、軍備を増やし、村の人々の生活や命をないがしろにしている姿勢を告発している。

その事実は衝撃だが、一方、生活感溢れる、地に足ついた人々、長い人生を生き平和の思いを強く持つ魅力的な人物が沢山登場する。
例を挙げると、冒頭、琉球語で歌を歌う御高齢の女性。この方の幼友達は特攻隊で死んでいる。彼女は、「軍神」とされているが彼は決して特攻隊員として死にたくはなかったのが本意だと言い切る。畜産業を営む中年の男性。非常に冷静に状況を見ておられる(島には、外国から攻められる危機感はないのに、自衛隊が来た。経済は逆に、悪くなったと言う)。舟に乗ってカジキマグロ漁を行う爺さん。カジキマグロにより右足を負傷し、「仇」を打つんだと話したりしてユーモアもある。路上で座り込みをして反対行動を取る祖母・母・娘三代。ヤギに癒される女性市会議員など。

基地にはデカいシェルターがある。銃を撃つ演習では、パンパンという嫌な音が夜10時まで続き近くに住む人の家にまで届いてくる。
ある女性が、マイクで基地の内部に向かって呼びかける。防衛省の人は、多少の犠牲は仕方ないと思っているんだろう。私もその「多少」に入って、殺されるのだ、と訴える。「有事」の際、「集団で避難する」という計画らしいが、自衛隊は決して住民は守らないだろう。基地には武器弾薬などがあるから、外国から一番に狙われるのではないか。そして、巻き添えを食ってしまうのは無辜の民だ。

歴史的に言っても沖縄ばかりが犠牲になっている。とにかく、この映画を、「沖縄の軍事化」や「国防」「平和」ということを考えていくきっかけにしたいと思う。

好きな映画をもう一本! これは昨年公開だが、「シン・ちむどんどん」というドキュメントもいい。政治芸人プチ鹿島とラッパーであるダースレイダーが沖縄に出かけ、沖縄知事選の選挙活動を取材し、かつ、辺野古の埋め立て反対活動をレポートし、そこから民主主義を考えようとする。

二人のルポは、相当にゆるやかで漫遊的だ。しかし、ハードル低く、素朴な変化球的質問をするからこそ、候補者の本音や本質を見せてしまうところもある。根底には、日本の政治や民主主義の危機を胸に抱いている。
「ちむどんどん」とは、心がワクワクするという意味と、不安である、という意味の沖縄の方言だ。

この映画、後半になり、沖縄国際大の先生、辺野古の座り込み運動の中心人物である高齢の女性のインタビューのあたりから、貴重な話が聞けて、どんどん面白くなる。
初めて知ったことを簡潔に書く。

■普天間が世界一危ない飛行場ではなく、もっと危ないのは嘉手納基地である。嘉手納では普天間の30数倍事故が起きている。普天間が危ないというのは話のすり替え。兵器がミサイルになった時代、基地を沖縄に置く意味はなくなってきている。

■2013年に銀座でオスプレイ設置の反対運動デモを行ったら、右翼勢力が現われ、売国奴、日本から出て行けと街宣され妨害を受けた。

■日本は沖縄を植民地と見ているからこそ、基地を配備させ、80%が反対した辺野古反対の住民投票の結果にも答えない。

沖縄では民主主義は機能していない。そもそも本土の我々が政治を考えるという民主主義的なことをやっていないと思う。

さて、辺野古の座り込みの人を前に、ラッパーであるダースレーダーが、沖縄の現状や民主主義の危機を5、6分、ラップで唄う。マスクのためやや声が聞き取りにくいし、早すぎるのが残念だが、DVDについた歌詞を見ると、韻も踏んでよく考えられている。
彼は東大を中退。若いのに脳梗塞に襲われ、左目を失明している。『NO拘束』という闘病記を書いている。「NO拘束」とは「脳梗塞」のことだ。
本によると余命5年と宣告されたとあるが、回復したか。中学高校の頃はサッカー少年。様々な生き方があるものだ。声援を送りたい。

(by 新村豊三)

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