映画に魅せられた少年たち カナダ「I like Movies」、仏「映画を愛する君へ」

映画が好きでたまらず映画を進路に選ぶ高校生を描いたカナダ映画、また、そうやって映画監督になった人物を描く仏映画を見た。

まず、カナダの「I Like Movies」。これは大好き!チラシだけ見ると、小太りでトロンとした眼の映画オタク君の狭い世界の映画かと思ったのだが、全然違った。確かに、映画好きな高校生を描いているが、終盤ジンワリと滲み出て来るテーマは青春映画として「普遍性」を持っていて、笑いながらジンと来る映画なのだ。

監督:チャンドラー・レバック 出演:アイザイア・レティネン ロミーナ・ドゥーゴ他

監督:チャンドラー・レバック 出演:アイザイア・レティネン ロミーナ・ドゥーゴ他

2000年代初頭、カナダの地方都市に暮らす高3の主人公のローレンスは映画好きで、卒業後、有名なアメリカニューヨーク大学映画学科に進むことを夢見ている。母親と二人暮らし。一緒に映画を見る友はいても、彼女はいない高校生活だ。段々分かってくるが、前年には、父親の死もあって学校に行けなくなっている。

近くのレンタルビデオ店でバイトを始める。ここの中年女性店長アラナが、とにかく元気で、いろいろと言動が芝居がかった人。ネタバレをさせてもらう。段々分かってくるが、彼女も若い頃女優をやっていたが、今で言う「Me,Too」運動の対象になる行為を受け、女優を辞め、言わば挫折の人生を送っている。

映画は淡々と進むが、大学受験の結果が届く日に、ビデオ店で大きな失敗をしてしまう。その時の、会社の上司との取り調べで交わされる会話が可笑しい。ここら辺から、爆笑しつつ心で泣いてしまう展開になる。
家を出て新生活を始めようとする直前、偶然、立ち寄ったファーストフード店でアラナに会ってしまい、彼女にいろいろと質問するシーンがこの映画の一番好きなところだ。
ローレンスはアラナに尋ねる。どうしたら、人に好かれるようになる?彼女の答える台詞が胸に染みる。「人の話をしっかり聴くことよ」「相手が関心を持っていることに耳を傾けるの」さすが酸いも甘いもかみ分けた中年は言うことが違う。また、これまでパッとしなかったローレンスに、「君は大学向きの人間。これからよ」と言ってくれる。
ジンセイ、一度負けても、敗者復活があると言っている。明るい希望を感じさせてとてもいい。詳しくは書かぬが、ローレンスが、入学した大学の寮で初めて出会ったばかりの同級生に、店長からの教えを実践するところは、思わず笑いを誘われる。彼にエールを送りたくなった。

てっきり、男性監督が自分の体験に基づいたシナリオを書いて撮った映画と思っていたら、何と監督は女性(チャンドラー・レヴァック)だった。低予算のインディー系の映画だが、優れた映画は、どこからでも生まれて、どこの国の人の心も打つ。

監督:アルノー・デプレシャン 出演:マチュー・アマルリック フランソワーズ・ルブラン ミロ・マシャド・グラネール他

監督:アルノー・デプレシャン 出演:マチュー・アマルリック フランソワーズ・ルブラン ミロ・マシャド・グラネール他

フランス映画の「映画を愛する君へ」は、フランス映画のベテラン監督アルノー・デプレシャンの作品。自分の個人史と映画史が両方語られる独特の構成である。
個人史も映画に関連した出来事ばかりで、5歳の時にフランス映画の古典「ファントマ」を見たことから始まり、年を偽って映画館に入りスエ―デンの巨匠ベルイマンの「仮面/ペルソナ」を見たこと、チェコ映画「ひなぎく」上映会を行ったこと、大学在学中に「大人は判ってくれない」に興奮するとかが描かれ中々興味深い。再現ドラマのようだが上手い演出だ。

それにしても、間に挟まれる、名画として登場する50数本の映画群(監督が好きな映画だろう)が、大スクリーンに写されると何と生々しいことか。アメリカ「ディア・ハンター」、台湾「侠女」、カナダ「フローズン・リバー」、「白い恐怖」(ヒッチコック作品)、中国「妻への家路」など、画面が息づいているようで、ドキドキワクワクする。

さて、好きな映画をもう一本!「I Like Movies」で店長が好きだった映画が1989年のアメリカ映画「マグノリアの花たち」だ。
南部ルイジアナ州のある街の美容室に集まる女5人の泣き笑いの友情物語。何せ、5人のメンツがスゴイ。個性派、実力派の女優が勢ぞろいで、それぞれ見せ場がある。5人とはサリー・フィールド、ジュリア・ロバーツ、オリンピア・デユカキス、シャーリー・マクレーン、ダリル・ハンナだ。
美容室の経営者がサリー・フィールドだが、その娘ジュリア・ロバーツには糖尿病の重篤な症状が出る。それでも結婚し、出産を経験していく。結婚に反対していた母親が、一番良く娘を支え、命が引き継がれるのが感動的。
未亡人シャーリー・マクレーンの、ウインクしたりゲップしたりする達者な演技は一見の価値がある。

(by 新村豊三)

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