3月14日に元勤務先の学校で第6回「映画教室」が開催された。映画は昨年2月10日の回で紹介した「雪子 a.k.a.」。小学校の先生雪子が不安を抱えつつもラップで成長する映画だ。ゲストは草場尚也監督とラップの指導をした卒業生のダースレイダー氏。

今回も中々の盛会で、これまでで最高という声も多く聞かれた。上映後の質疑応答の内容が濃かったからだろう。
質疑応答では、司会役の教員が、ゲスト2人に今回の映画の成り立ちや、どうやって今の道(映画監督、ラッパー)に進むことになったかを質問。
監督は大分大教育学部を卒業し映画監督になりたい夢を追求しようと考え上京、映画美学校に進みテレビ局のバイトなどをし、自主映画を作り受賞。女性がラップをやる映画を作ろうとしたが上手く行かず、自分の強みを生かし、学校の先生がラップをやる映画に方向転換。撮影に使う学校に許可をもらいに行ったら(私立明星学園)、卒業生にラッパーがいますよと紹介され、ダース君と繋がる。
ダースレイダー君は、浪人時代、駿台予備校の自習室で3浪の医学部受験生が一人ラップをやっているのを見てカッコいいと思い、ラップの集まりに参加、東大合格発表の日の夜に、高円寺でラッパーとしてデビュー。大学より、ラップの方が面白くなり中退してラッパー活動を始め今に至る。
会場のスクリーンに、ダース君がバンドを率いて、怒りを込めて、ガザの攻撃を非難するラップを歌う映像(「Tell Me Why」)も上映されたりした。
次に生徒からの質問が始まる。質問に真摯に答えるダースレイダー氏と草場監督の発言は、16歳の高1から70代まで、心に刺さってきた。どう生きるか、また、どう他人と関係性を築くかということについて、いろいろ考えさせるものだったからだ。
生徒からの質問をまとめると、大きく二つ。まず、普通と違う道を選択したが、アーティストを職業にしている自分を現在どう捉えているかだった(確かに、高校生が一番関心のあるところだ)。
次のような答えが返ってきた。
○映画を作るだけで幸せだ。より良い映画を作りたいという気持ちは一生続くだろう。
○中学高校時代、家庭にも自分の居場所がなかった。映画や音楽の方が真実だと思っていた。
○好きなことを仕事にしていると、自分の中から勝手に力が湧いてくる。仕事のオファーが来
なくても、やりたい気持ちは湧く。
○ブルシットな状態で仕事を続けると人生がブルシットになる。
○自分がラップで社会的発言を続ける意味は、社会の穴を見つけちゃったから。それを行うことは自分の倫理でもある。
○皆の基準、皆の座標軸に従う必要はない。
もう一つ、生徒から、映画の中で、雪子が彼氏と別れたことを受けての発言だと思うが、「他人を理解するにはどうすればいいか」という質問。
ダースレイダー君は「理解出来なくて正しい。それでいいんだよ。これは人間が本質的に抱えている問題。類と雪子は、リズムとラップで繋がっている。他者と対話を始めることから理解が始まる。人間は本音を言ってもいいんだよ。トランプは困るけど」と答えた。
話が面白く広がって行き、社会人の20代の卒業生は、周囲に本音を言ってどう連帯していくのか、自分の仕事はブルシットジョブで、自分の軸を作るのが難しい、と発言。
70歳の参加者(男性)からは、「自分は40数年、某洋酒会社で働いてきて、この数年、会社に使われる人生に疑問を抱き、若手のために「YOLO」活動のセミナーを開いている。発想を逆転させて、自分のために会社を使えばいいのではないか」、の意見。(「YOLO」とは、You only live once.の頭文字から取った。人は一度きりしか生きられない、好きなことをやって生きようという思想)
といったように、面白い質疑応答が続いた。若手の誠実な監督、百戦錬磨のユーモアもあるユニークな卒業生という組み合わせは、確かに最高のコンビだったと思う。
ダース氏は、硬派、社会派の面も持つ。先に挙げたラップの「Tell Me Why」や「Dreamer」は迫力ある。YOUTUBEで簡単に見られる。ラップって、不良っぽい兄ちゃんたちが、個人的なことを歌うという偏見があったが認識を改めた。
実は彼は透析患者である。週に3回、4時間の透析を受けている。彼のコンサートで聞いた、トランプのイラン爆撃に反対する「病院を攻撃するな!」という唄は素晴らしい。彼の魂の叫びが聞こえる。(これもYoutubeでご覧になれます)
(by 新村豊三)