劇場で見るべき唯一無二の体験映画「シラート」、そして「Michael/マイケル」

予備知識なしで見に行き、大画面の映像と重低音の音楽に魅せられ、ストーリー展開に釘付けになったのがスペイン映画の「シラート」だ。

「シラート」監督:オリベル・ラシェ 出演:セルジ・ロペス ブルーノ・ヌニェス・アルホナ他

「シラート」監督:オリベル・ラシェ 出演:セルジ・ロペス ブルーノ・ヌニェス・アルホナ他

「シラート」とは聞き慣れない言葉だが、スペイン語で天国と地獄の間の道であると、まず画面に字幕が出る。映画が始まり、のっけから驚く。サハラ砂漠の岩山の断崖に、音楽用のでっかいスピーカーが何台も設置され、大音量の重低音の音楽が流れ、数十人の人々が踊るさまを画面が捉える。皆、夜通し激しく踊るのである。

これは、「レイブパーティ」と呼ばれるイベントなのだ。腹にズンズンと来て、音楽の陶酔感をこちらも感じてしまう。やがて、この場に似つかない50がらみの男と小さな息子が、この女性を見たことないかと、踊る人たちに写真を見せていく。娘が失踪して5か月経ち、父と弟が探しているのだ。

父子は二組の男女5人と親しくなる。彼らは機材や食料などを車に詰め込み、各地で行われるレイブパーティを廻っている。モロッコだろうか。普通の乗用車に乗った父子は、その男女の乗るトレイラーと軽トラックの後を追っていくことになる。
上映開始後30分くらいか、音楽が流れる中、画面右から、サハラ砂漠を走る3台の車が画面に映る。中々の構図だと思っていると、画面真ん中に「シラート」とタイトルが出る。なかなかカッコいいのだ。

いつの時代かは明示されないが、人物たちがラジオで知る報道で、各地で暴動が始まったことが分かる。登場人物が「第三次世界大戦になるか」というと、別の一人が「世界は既に地獄だよ」と答える。
登場人物たちがいかなる人物かは示されない。スペイン語をしゃべったり、フランス語をしゃべったりする。1人の男は右手がなく、別の男は左足の先がない。それがいかなる理由かも分からない。また、父子の娘がどんな事情でいなくなったのかもわからない。しかし、それでいい。

岩山の断崖の細い道を車が走る。こんなところがあるのか、また、ここを走っていくのかと驚嘆する箇所が続く。正に、こちらも同じ体験をしているようだ。この映画、きっとCGは使っていない。リアルな生な人間が演じている迫力がある。そこがいい。こんなショット見たことない、というのが幾つも出て来る。
後半、ストーリー上、あっということが数回起きる。私は思わず2度、声を上げてしまった位だ。しかし、それは、書かぬのが礼儀だ。

俳優もプロでなく、監督が実際にレイブ会場で出会って演じてもらった人ばかりとのこと。確かに、本当に手がないとか独特の雰囲気があるもんな。
これは、ストーリーで心を震わすとか、視野を広める、深い洞察をしている映画ではない。しかし、これだけ、見る者を惹きつけ、画面に没入させるというのも、映画ならではの大きな魅力。
これぞ小さな画面でなく、大きな劇場で見るべき映画だ。いろいろ情報を書いてしまったが(スミマセン)、予備知識なしで見る方が絶対にいい映画。

好きな映画をもう一本! 現在公開中の「Michael/マイケル」も劇場で見るのをお勧めしたい。勿論、マイケル・ジャクソンの伝記映画。佳作である。正直言うと、この映画、見る前の予想と違い、前半はやや暗く爽快感があまりない。

監督:アントワン・フークア 出演:ジャファー・ジャクソン ジュリアーノ・クルー・バルディ コールマン・ドミンゴ他

監督:アントワン・フークア 出演:ジャファー・ジャクソン ジュリアーノ・クルー・バルディ コールマン・ドミンゴ他

この映画はマイケルの人生と音楽活動の「光と影」のうち、前半は、影の部分が描かれるのである。困ったことに父親が強権的で支配的なのだ。息子5人をミュージシャンにすべく小さい頃から訓練を施すのだが、一番年下のマイケルを殴ったりするし、成人してからも活動にも口出ししてくる。
この映画は、マイケルが一人の人間として自立、つまり、きちんと父親に対しても自分の意志を言えるようになるまでを描くのだ。知らなかったが、マイケルは「ピーター・パン」の絵本が大好きだし、動物をこよなく愛し、大きな屋敷にキリンやヌーを飼う位だ。そして、優しい。自分が事故で火傷の大怪我をしても、同じ病院の小さな子のことを気にかけるのだ。ここはグッと来る。

終盤の、兄弟と共にアメリカを廻るツアーや、ロンドンでのコンサートシーン(1988)は大いに盛り上がる。これも絶対に大画面で見るべきだろう。
主役のジェファー・ジャクソンは、中々いいなあと思っていたら、何とマイケルの甥っ子とのこと。やっぱりね、と納得した。
尚、映画は1988年で終わっている。マイケルは2009年まで生きた(享年50)。映画の続編があるか。

(by 新村豊三)

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