先月、日本の元首相が射殺された。この事件について、民主主義への挑戦であるという言い方があったが、違和感を抱いた。政治の背景がない個人的私怨による犯行だろう。容疑者の人生を捻じ曲げた統一教会も酷いが、それと結託している自民党議員も酷い。
最初、一番問題なのは呆れる程お粗末だった警備体制と思ったが、事件は「パンドラの蓋」を開けてしまい、問題の根はかなり深い。
前にも書いたことがあるが、2006年ソウルで韓国映画の勉強をしていた頃、自分が暮らしていたアパートの近くにあった「現代デパート」前に、まだ大統領ではなかったが、政治家のパク・クネ（2013年に大統領就任）が来て演説をしている時、暴漢に襲われて顔を切り付けられた事件のことを思い出した。刃物で顔を切りつけるという発想も凄いが、それを止められなかった韓国の警備の悪さに驚いてしまったが、今回の日本の事件はそれを遥かに超えている。
話が逸れたが、今度の日本の事件で怖いのは、一般人が、ネットで銃の作り方を知り部品を購入して、武器を作れてしまうことだ。そして、様々な事情で、今の社会に恨みを募らせている人が一定程度存在するということではなかろうか。
さて、要人を暗殺しようとする人物を描く映画にはどんなものがあったか。すぐに思い出したのはアメリカ映画「タクシードライバー」、韓国映画「ＫＣＩＡ 南山の部長たち」、日本映画「日本暗殺秘録」だ。
「タクシードライバー」監督：マーティン・スコセッシ 出演：ロバート・デ・ニーロ ジョディ・フォスター他
1977年の「タクシードライバー」については改めて説明する必要がないだろう。40年以上も前の学生の時、池袋文芸座の大スクリーンで見たが、衝撃を受けた映画だった。ベトナム戦争帰りの若者トラビス（ロバート・デニーロ）が不眠症に苦しみながらタクシーの運転手になり、ニューヨークの夜の街を流していく。街には様々な人がうごめいている。
大統領選のボランティア活動をする若い女性に言い寄り拒絶されると、頭をモヒカン狩りにし、その大統領候補者が街頭で演説する際に彼を狙撃しようとして失敗する。
最後は娼婦の巣窟に出かけていき、そこにいるポン引きを惨たらしく射殺する。皮肉なことに、そこにいた幼い娼婦（若きジョディ・フォスター）を救出したと誤解されてヒーローになってしまうというストーリー展開だった。ニューヨークは怖いと感じた。
次に、パク・クネの父親、パク・チョンヒが1979年に射殺される顛末を描く、昨年度公開の韓国映画「ＫＣＩＡ 南山の部長たち」も映画としてクオリティが高い。パク・チョンヒは、大統領宅で、何と、腹心の部下、韓国中央情報部（ＫＣＩＡ）の部長キム・ジェギュンに射殺されてしまうが、この映画はフイルムノワールのような、静かで緊迫感ある画面が進行する。部長を演じたのがイ・ビョンホン。パク・チョンヒの発言に苦悩し葛藤する表情が良かった。
ラストの射殺の長いワンカットはすごいと思ったが、映画の技法もさることながら、内容に驚くことばかりだった。暗殺したキム・ジェギュンは次の大統領候補であった。軍人であった二人はクーデターを起こし政権を取ったのだが、パク・チョンヒは革命の理想は消え、独裁を行い、秘密裏に蓄財を行う人物として描かれる。釜山や馬山では市民のデモが続く。大統領の「（連中は）戦車でひき殺せばいい」という酷い発言も出た。
これは、暗殺した中央情報部の部長キム・ジェギュンの名誉回復がテーマではないかと思ったくらいだ。製作当時は左翼のムン・ジェイン左翼政権だから出来たのだろうか？
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1969年といえば、日本はベトナム反戦運動も学生運動も激しかった頃だ。東映は親分肌の社長岡田茂のもとで、仁侠映画やエロ映画を盛んに作るのに加えて、「テロ」まで商売にしたようだ（実際、観客動員3位）。しかし、小沼正は、腐敗した日本を変えたいと思う、痛ましくも純粋な人物として描かれている。
オールスター映画の趣もあり、片岡千恵蔵、若山富三郎、菅原文太、高倉健、鶴田浩二などが出演する。小沼を演じた千葉真一が熱演。若き日の藤純子（現在の富司純子だ）なども初々しく登場。
（by 新村豊三）