アマゾンが無敵どころかボコボコにされて泣きながら逃げ出したという話

アマゾンは無敵だと思っている人はいないだろうか? 2019年現在の日本では確かにそう見えるかもしれない。しかし世界中で無敵なわけではない。

「米アマゾン、中国でのネット通販から撤退 競争で苦戦続き」BBC NEWS JAPAN

わたしは最近知ったが、ニュースとしては古い。今年4月の記事である。
日本では無敵で、競合するネットショップもリアル店舗も片っ端からなぎ倒しているかに見えるアマゾンが泣きながら逃げ出したと聞けばそれは気になる。

読んでみると見出しと内容はちょっと違った。今年7月18日をもって「マーケットプレイス」事業から撤退するという話だった。日本でもそうだがアマゾンは自社商品を売るだけでなく、第三者に売り場を提供し手数料をとるビジネスもしている。それがマーケットプレイスだ。マーケットプレイス以外の、直販・クラウド事業・キンドルなどは継続するらしい。つまり完全撤退ではまったくない。

しかし衝撃的な記述もあった。
アメリカではネット通販のシェアで約5割を占めるアマゾンが、中国ではなんと0.6%だという。2004年にすでに中国へ進出し、2008年には15.4%のシェアがあったのにである。
これを聞くと見え方ががらりと変わる。見出しは内容と違うようでいて違わないのではないか。アマゾンは強がりでごく一部の撤退と言っているが、実質はやはり泣いて逃げ出したのではないだろうか。

中国でネット通販が盛んでないわけではない。それどころか世界のEC市場規模の4割は中国と言われる世界最大の市場だ。

“あの”アマゾンが中国ではなぜそんなにも弱いのか。検索すると解説してくれるサイトはいくらも出てくる。
たとえばここなど詳しい。「中国市場から撤退を発表!なぜアマゾンは撤退することになったのか? Glo Tech trends」

サイトによって詳しさや具体性に違いはあるが、だいたい似たような分析だ。

1、アリババ、JDドットコムなど中国発の競合企業に敗れた。
2、品揃え、配送速度、価格、すべてで見劣りし消費者に選ばれなかった。
3、アメリカの成功例をそのまま持ち込み、中国の消費者に合わせたやり方をしなかった。

2は興味深い。日本ではいずれもアマゾンの強みとされているところだから。
3の「アメリカの成功例をそのまま持ち込んだ」は日本でも同じだろう。そして日本では成功した。日本だってアメリカと違う点はたくさんあるが、中国はそれをはるかに超えて異質だということか。

どこのサイトでも似たような分析だから、これらの理由はきっと大筋で間違ってはいないのだろう。しかしそれがすべてなのかは疑問がある。
過去にも様々な業種の多国籍企業が中国進出をはかってきたが、だいたいうまくいっていない。
中国政府が自国企業育成のために表に裏に海外企業の足をひっぱったということはありそうだ。政治の世界に公正などという概念はない。

まっとうな競争なのか疑問の余地があるとはいえ、海外を見て、アマゾンも無敵ではないと知るのは有益なことだろう。日本勢にだって望みはあると思える。なんといっても諦めたらそこでおしまいなのだ。

もう一つ気になるのは、中国の巨人アリババの世界戦略だ。アリババは事業分野によってはすでにアマゾンを上回ると言われる存在だ。
アリババはすでにスマホ決済「アリペイ」などで日本進出を果たしているし、日本製品を中国(及び世界)に売るためのプラットフォーム事業にも力を入れてきているが、消費者向けのネット通販を日本でやることはあるのだろうか。

やればアマゾンと正面衝突することになる。地の利のある中国で圧勝したアリババも外国ではどうか? 消費者にとってはアマゾン独り勝ちよりも面白いことになりそうだ。

<アマゾンが巨人でも怪物でもなかった頃。懐かしの20世紀最後の年>に続く。

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