月への有人飛行を描く韓国の力作「THE MOON」、米の娯楽作「フライ・ミー・トウ・ザ・ムーン」

月への有人飛行をテーマにした韓国とアメリカの映画が面白い。
まず、チラシだとどこの国の映画か全く分からないし、また、宣伝もほとんど見かけないのでスルーしてしまいそうだが、韓国映画「THE MOON」が素晴らしい傑作。韓国映画にいくら勢いがあり、秀作を量産していると言っても、まさか宇宙SF映画に挑戦し、ここまで完成度の高い映画にしているなんて想像できなかった。

監督:キム・ヨンファ 出演:ソル・ギョング ド・ギョンス他

監督:キム・ヨンファ 出演:ソル・ギョング ド・ギョンス他

昨年夏に本国で公開されている。3人の宇宙飛行士を載せた有人ロケットが月へ向かって発射される。5年前は、事故が起きて3人の飛行士が亡くなり、責任を取って宇宙センターの責任者二人も辞任している。
今回は順調に進行するものの黒点爆発による太陽風に襲われた関係で、船外に出て点検中の二人が亡くなり、若い隊員のソヌが一人取り残されてしまう。左遷されていたセンター長ジェグ(ソル・ギョング)がセンターに呼び戻され、指揮を執ることになる。やがて、その残された飛行士は、責任を取って自死したもう一人のセンター長(イ・ソンミン)の息子であることを観客も知る。

無事に月に着陸し、探査を行うものの、流星雨なるものに遭遇し、地球に戻れなくなる危険に陥ってしまう。月面のソヌは孤軍奮闘し、地上の韓国ではジェグたちが必死で対応を考え、また、遥かアメリカのNASAに勤務するジェグの元妻ユンも、懸命に解決策を考える。
そういう内容を、チャチでない正にリアル本物、臨場感たっぷりの映像で見せてくれる。確かに、「ゼロ・グラビティ」(2013)とか「アポロ13」(1995)のような話である。しかし、二番煎じと全く思わないのは、先行する作品よりスケールが大きいこと、韓国映画お得意の「父と息子」のテーマが加わっていること。そして、最後の最後には、国を超える人類愛による決断があることだろうか。

ソル・ギョングもいいし、韓国映画ファン誰にでも知られ、確かな演技が評価されているイ・ソンミンがソヌの父親に扮し、台詞無しでも説得力ある存在を示す。韓国映画、ここまで来ているのか。
見た劇場には10数人しか観客がおらず、しかもほとんど中年女性だ。宇宙飛行士の一人を演じた若手俳優(ド・ギョンス)のファンなのであろうか。彼は、アイドル歌手のようだ。ともかく、この不入りは、情報がよく分からぬチラシと宣伝の少なさ故ではないか。まことに残念なり。

監督:グレッグ・バーランティ 出演:スカーレット・ヨハンソン チャニング・テイタム他

監督:グレッグ・バーランティ 出演:スカーレット・ヨハンソン チャニング・テイタム他

一方、アメリカ映画の「フライ・ミー・トウ・ザ・ムーン」は、シリアスな韓国映画と違って笑いも恋の要素もある娯楽作。「THE MOON」は近未来の話だが、こちらは、1969年、アメリカが世界に先駆け「アポロ11」を月に飛ばした時のNASAの職員たちの話。脚本はよく出来ており、明るい万人向けの作品。しかし、「娯楽作」であっても金は掛かっていて、ロケットもNASAの建物も本格的。空間の広がりも感じさせる。

まあ、前半のNASAに予算がないなんて設定はフィクションだろう。政府の高官から送り込まれた女性の宣伝ウーマン(スカーレット・ヨハンソン)が、時計のオメガなどの大企業とタイアップしてお金をドンドン調達する。
後半は、見る前の予想通りアメリカ映画「カプリコン1」(1977)の「月バージョン」だ。しかし、これをもうひとヒネリしているのが面白い(これについては、話の核なので伏せる)。ただ、そのクライマックスの肝の部分(あるアクシデント)が安易なように思えた。ここが納得出来る展開ならば大傑作だったろうが。

監督:ピーター・ハイアムズ 出演:エリオット・グールド ジェームズ・ブローリン他

監督:ピーター・ハイアムズ 出演:エリオット・グールド ジェームズ・ブローリン他

好きな映画をもう一本! その「カプリコン1」は46年前、確か池袋の劇場で見た傑作。
火星へ向かう有人ロケットが発射直前、部品の故障が見つかる。国家事業を中止させるわけも行かず、NASAと政府は3人の宇宙飛行士が火星に行って活動する映像をデッチあげ、火星に行ったように思わせる。やがて、その3人は命を狙われることになり、砂漠での必死の逃避行が始まる。陰謀を嗅ぎつけ調査を続ける新聞記者が彼らを救おうとする。

クライマックスが手に汗握る。砂漠の上で2台のヘリが、農薬散布の複葉機を追う。その飛行機には記者と操縦する地元の陽気な(!)爺さんが乗り、何と、宇宙飛行士が翼にしがみ付くのである。
現代のCGを駆使した映画のように激しいカット割りも、目まぐるしい展開も超人的な活躍もないが、肉体を使って生身の人間が格闘しているのがいい。今回、配信の小さな画面で見ても興奮した。

(by 新村豊三)

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