N生児の星 5

このお話は斎藤雨梟作・SF小説『N生児の星』の第5話です。
過去回はこちらです→ 第1話 / 第2話 / 第3話 / 第4話
全10話で完結予定です。

N生児の星©︎斎藤雨梟 SAITO Ukyo

 望がおかしいって、噂くらいは聞いてるんだろう。実はもう死んでて、私が一人二役やってるなんて、昔の悪だくみと正反対の、傑作なのもある。それとも、もっと出所のまともな話にあたってきたのか。言っておくが、それだって事実じゃない。なぜ断言できるかって、事実なんか私にもよくわからないからさ。別に隠してるわけじゃない、説明のしようがないだけなんだ。望は突然、奇病を患ってね。時々前触れもなく倒れて、鼓動も呼吸もピタリと止めて何日もそのままになる。最初は死んだかと思って泣いたけど、球になだめられて様子を見てると、そのうち何もなかったように動き出す。聞いたことのない話だろう。球も調べてくれるが原因がわからない。命の危険はなさそうだと言うが、専門家の意見とはいえ推測の領域だ。望は好きなものも思い通り作れず、よく混乱したり塞ぎ込んだり辛そうだった。私も、長生きしたいなんぞと思いもしなかったくせに、望が早死にすると想像しただけで気が狂いそうだった。

 そんな時、生体技能者の認定制度が始まって、特級に私を推薦したいと球が言い出したんだ。球自身も認定者に内定したから、球の診療が特級技能とみなされ、もう一般の人間を勝手に診られなくなる事情もあった。私も認定者ならば自由に診られるし、私の技能を維持するため、望の健康状態が私と同じ必要があると認められれば、望も治療できる。今ならばそう話を通せると。現代に球以上の医者はいないよ。決して身内びいきじゃなく、実際そうなんだ。この時点で、話を受ける以外、考えられなかった。

 生体技能とは、生身の体に備わる、まだ抽出・信号化できていないメタ感覚を高度に要する技能のことだ。今だって、連邦政府の存在意義といったら、まずはこれだけ数の減った人類を維持する計画にあるだろう。当時は古い「国」がなくなって、連邦制と呼べるものがどうにかまとまったばかり。なおさらそこに、全てがかかってた。生きた生身の体のサンプルをなるべく数も種類も確保しておきたい肚も当然あったろう。認定者は新しい体にはなれないが、特級ともなると、生身のまま健康を保ち、メタ感覚に関わる環境も保つために、連邦があらゆる手段を講じてくれる。そうも聞かされた。

 それから今まで、球が手を尽くしてくれてるが、望の具合は一進一退だ。動きが止まる不安には、何百年経とうと慣れそうにない。それに、良くないなりに状況が安定すればしたで、また別のことがこたえる。動かない時の望が、昔作った「死体」そっくりなんだ。残酷な眺めだよ。私は心の奥底でこの状態をこそ望んでいて、人形作りはその再現だったんじゃないかと、疑い出すと止まらず、ひどく苛まれてね。球にどうにもできないならば医学の限界だろうが、それを知らされ続けるのも辛い。いっそ認定者を降りて二人一緒に自然寿命に任せるかと思うこともある。

 でも、あんたみたいな変わったお客を迎えて、心が未知と遊び出すとわかるんだよ、それもこれもただ単に、このところのどうしようもない倦怠を、逃れたいだけだったかもしれないってね。きっと私にはもう少し、待つべきものがあるんだろう、まるで知れない明日だとか、そんなものが。なに、球もよく訪ねて来てくれるし、この頃じゃあ望は動き出せば元気なのが救いだよ。今? 止まってるよ、望は。会わせるわけにはいかない、悪いけれど。

 私と望と球の身の上話と間柄は、これくらいだ。

 次はそっちの番だ、ここへきた本当の理由をそろそろ教えてくれないか。

 あんたが私たち三人に、そっくりな理由も。

 新しい体をどう作るのも簡単とはいえ、偶然とは考えにくいね。何かわけがあるんだろう? 妙な話だ、こんな長い時を経て、同じ顔の人間が五人揃うなんて。

     *

 日は落ちかけ、部屋の隅の暗がりも夜の色を少しずつ濃くしている。剣崎が手をかざすと、天井につけられたあかりが灯り、互いの姿をつぶさに照らし出した。はじめに相対した時の剣崎の行動を再現するかのように、若い客は油断なくじっと見つめ返し、そして薄く微笑むと切り出した。

「私が『新しい体』だと、先ほどから随分確信をお持ちなのは、なぜですか」

 剣崎の眉がぴくりと動く。自分と寸分違わぬ姿をした相手を、人でない者でも見る目で、しかしどこか面白がる風情で迎えていたのが、急にその同じ双眸に心もとなさが浮かび出る。

「なぜってそりゃあ、見れば……」

 発した言葉も半ばで不明瞭に濁り、早くも確信を疑い始めたのは明らかだった。

「確かに私は新しい体らしい外見でしょうが、それを言うならば生身のはずのあなたも、同じでは?」

 客はなおもたたみかける。指摘はもっともなものだが、剣崎は意表を突かれたというふうに、曖昧な表情を口元に貼りつかせて絶句している。

「私がここへきた本当の理由を、いくつか推測されてはいるんでしょう。でも言っておきますが、それは事実ではありません」

 意図してなのか、つい先ほどの物言いをそのまま返すと、客はようやく口を開きかけた剣崎を両手のひらをふわりと上げて牽制し、ひと息の間をおいて、言った。

「私は体の成長を経験していません。生まれた時から今の姿なのです」

(次回につづく)


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