アーティストとしての道のり
「ぼくはいろいろ描きたがりなんです。
絵を描くひとにもいろんなパターンがあるでしょう?
方向性を決めて、極めていくひともいます。かっこいいなあと思うし、憧れるけれど、でもぼくはそういうタイプじゃない。
手を動かしている行為そのものが好きで、描くものにはあまりこだわりがないんです。むしろそのときの気分でいろんな絵が描いてみたい。
実は、自分のタッチを確立し極めていくべきだという思いにとらわれていた時期もあったんです。
27歳くらいでフリーのイラストレーターになって、最初は言われるように、描かせてもらえるものなんでも描いてたんですけど、1999年のボローニャ(国際絵本原画展)入選がひとつの転機になりました。
ボローニャ展は今でこそ有名になりましたが、当時日本ではそれほど知られていなかったと思います。日本からの応募者、入選者も今よりずっと少なかったです。
ぼくは先輩イラストレーターの堀岡光次さんに教えてもらいました。
駆け出しのぼくにはイタリアの展覧会に出すという発想はなかったし、出したところでという気持ちも正直あったんですが、堀岡さんが熱心に勧めてくださって。
過去の入選作を焼いたCDまでいただいたんですよ。
尊敬する先輩にそうまでしてもらって出さないわけにいかないから(笑)、じゃあがんばろう、と」
「そうしたら入選したんですね」
「はい。だから堀岡さんは恩人なんです」
「展覧会のときは現地に行きました。ボローニャ展には世界中の出版社がブースを出していて、ファイル持っていくと気軽に作品見てくれるんです。他の作家さんたちの絵を見たり、やり方を見たりしたのも大きかったですね。
これからイラストレーターとしてやっていくならタッチを確立しそれを極めて、と思ったのがこのときです。
せっかく入選した、認めてもらえたタッチならこれで今後やっていこう。そう考えて、しばらく依頼の仕事もできるだけ近いタッチに落とし込んでいました。ボローニャの線からなるべくはみ出さないように」
「どんなタッチでしたか?」
「わりと今のタッチに近いんですよ。フォトショップ使用のCGで、太い輪郭線のシンプルな絵です。小さなサイズのプリントアウトで応募しました。当時はCGの入選作はまだ少なかったと思います。
でもね、それをずうっとやっているうちに、ちょっとだけ無理している気がしてきたんです。ぼくは描くこと自体が好きで、このタッチのみを一生描いていきたいというタイプではないとだんだんに気がつきました。
これ、と決めたくない。こだわらないのがぼくのこだわり、みたいな。
そのとき描きたいタッチ、今の雰囲気でいいんだ、と考えるようになってから自由になりました」
「でもふしぎなことに、いろいろやっているうちに自然と、一度こだわろうと思ったタッチ、線に戻ってきているんです。ぐるっと回って、やっぱりぼくはこれ好きなんだな、と気がついた。けっこう最近の話です。
『とりがいるよ』の絵も近いですよね」
※次回更新は10月5日(水)です。たかしまさんの新作絵本「とりがいるよ」の話をじっくりお聞きします。お楽しみに!
※まんが家のための蔵出し漫画サロン「おくらのあな」でもたかしまてつをさんの作品が読めます。遊んでばっかりの誰かさんの日々「あそばか」連載中!
たかしまてつを tt-web
1967年愛知県生まれ。画家/イラストレーター。1999年ボローニャ国際絵本原画展入選、2005年ほぼ日マンガ大賞受賞、2005年二科展デザイン部イラストレーション部門特選賞を受賞。代表作は「ブタフィーヌさん」(ほぼ日刊イトイ新聞)、「ビッグ・ファット・キャット」シリーズ(幻冬舎)。近刊に風木一人との絵本『とりがいるよ』(角川書店)がある。