『五つの色の物語』amazon POD出版記念 作者座談会(3)「絵と文でPOD:PDF作りの体験談と、今後の活動」

『五つの色の物語』amazon POD出版記念 作者座談会(3)「絵と文でPOD:PDF作りの体験談と、今後の活動」

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イラストレーター5名のグループ「ホテル暴風雨 絵画文芸部」による小説と絵のアンソロジー本『五つの色の物語』がamazon POD で出版されたことを記念する座談会の3回目です。「絵画文芸部」とは? POD出版までのいきさつ、など。絵と文の表現・本作り・POD出版などに興味のある方のご参考になれば幸いです。

1回目はこちら:『五つの色の物語』amazon POD出版記念 作者座談会(1)イラストレーターはいかにして小説を書いたか?

2回目はこちら:『五つの色の物語』amazon POD出版記念 作者座談会(2)収録作品を作者が紹介:絵と文の関係、それぞれ

こんにちは、カッパです。

ーーおなじみ、司会進行役のカッパです。さて読者の中にも、みなさんのように絵も小説も書いてみたい! という人がいるかもしれません。そういう人たちにアドバイスというか、絵画文芸の作り方のヒントのようなものがありましたらお願いします。

服部奈々子絵画文芸部副部長。小説家名は「芳納珪」。以下「」):まず主人公の絵を描いてみることですかね。

斎藤雨梟絵画文芸部部長。以下「:それは正統派の意見! 思いつかなかったけど(笑)。逆に、文章だと「絵にも描けない美しさ」とか書こうと思えば簡単に書けちゃうことの凄さ(適当さ?)が、絵を描く人にはよくわかるんじゃないでしょうか。特にイラストレーターは「こういう絵で」という注文を読み取って描くわけですから、よくある表現でも「それってどういうこと?」と再構築することに慣れているのはアドバンテージですよね。

:文章の方が簡単な場合もある、というのはわかるー!

クレーン謙(絵画文芸部宣伝部長。以下「」):同意です。世界観の構築から入る人がいますけど、あまりオススメできません。

:地図とか年表とか延々作ってる感じ? それも楽しいですけど、あくまでそれらは物語の背景であって、そこに行動原理を持ったキャラクターがいないとね。あとは私が使うのは「2+1の法則」かな。主人公と友達がいて、そこに第3の人物が現れる、とか。

:美術高校で教えていて思ったんですよ〜。漫画を描いていても、行動原理は確かに皆、発想しないかも。内面がない代わりに、やたら世界観が壮大(笑)。ちょうど、進撃の巨人が流行っていましたね、その頃。

:なるほど〜。自分も高校生の頃はそんなだったかも(笑)。子どもの頃は自分で考えて行動するということをあまりしないから、行動原理と言われてもよくわからないですよね。

:いや、僕もそうだったかも。大切ですよね、それも。

:「壮大な世界観の中に自分がいる」のを楽しめているのかも。だからキャラや行動原理はいらないのかも!?言われてみれば私も、今も普通にそういうところはあります。とはいえ、その時の主観なくしては再現できないもので終わらせないためには、濃くなぞり書くみたいな工夫が必要で、それが物語としての引力・訴求力というものなのでしょうね。

ーー絵画文芸を一つの作品として仕上げるのも大変ですが、それを一冊の本にするのはまた別の大変さだと思います。今回苦労したことなどをお聞かせいただければ。

:形になって残るものだと思うと、校正には本当に気を使いますね。それと私はページデザインをAdobe Illustratorで制作しましたが、ルビの機能がないのが辛かった。前々からIndesignを覚えなければと思っているのですが…

松沢タカコ(絵画文芸部デザイン部長。以下「」):PDF(※8)書き出しがネックでしたね〜。それぞれ使っているソフトが違うので、どこで間違ったか確認できなくてもどかしい、という場面はありました。

浅羽容子(絵画文芸部会計部長。以下「」):RGBとグレースケールとCMYK……使用ソフトでの色変換に苦労しました。

:パソコンが壊れたこと(笑)

:あー、そうでしたね。大変でしたね…

:おさわがせしました〜。

:5人の「部」なので、みんなでチェックしあったりブラッシュアップできたりという素晴らしいメリットがありますが、今回は入稿用のPDF作るのが大変でしたね。各自、PDFの書き出しまでを自分が持っているソフトでやりましたが、

 浅羽さん:「Pages」と「Photoshop」と 「Acrobat」

 服部さん、松沢さん、斎藤:「Illustrator 」と 「Acrobat DC」

 クレーンさん:「縦式」と「Photoshop」

と、バラバラでした。

(この話、ちょっと込み入ります。今PDF作りに苦労していて情報が欲しい方もいるかもしれないので書きますが、それ以外は次の浅羽さんの発言まで飛ばしていただいてもいいかも:「雨」より)

結合したPDFをプリフライトツール(amazon のデータチェックを想定した、エラーを発見してくれるプラグインみたいなもの)でチェックした時、「ページの向きまたは大きさが揃っていない」「画像の解像度が不足」などのエラーが出ました。それから、モノクロページにCMYKのデータが入ってしまっていた。

試行錯誤の結果、大部分は何とかなったんですが、解像度問題は最後まで残りました。文章部分を「縦式」で作り、Photoshopで絵と組み合わせてPDF形式で保存したクレーンさんのページで出たエラーです。解像度が、単独のページをPhotoshopで開いた時は足りているのに、結合したPDFだと不足してしまっていました。結局、PDFにする前のPhotoshop形式のファイルを「Illustrator」で配置してPDF形式で保存し、結合したPDFの中のデータと1ページずつ差し替えることで解決しました。

PDFを作るアプリケーションは色々あって、誰でも作りやすくはありますが、「PDF化、意外と大変」というのが正直なところです。私たちは5人で知恵を借りあって何とかできましたが、一人でやってみようという方は、つまづいたら原稿をPDF化してくれる有料の支援サービス利用などを考えるのも一案だと思います。

:Pagesだと、黒一色でもRGBになってしまうので、面倒な変換をしました。まず、PagesをPDF化。全部で10ページあるそのPDFをPhotoshopで1ページずつ読み込み、CMYKかグレースケールに変換してPDF保存。1ページずつのPDFをAcrobatで統合して10ページにする、といった手順です。

:でも結果的には、皆個性が発揮できて良かったような。大変でしたが(笑)。良い勉強になりました。ご苦労おかけして、失礼しました。

:浅羽さんも結構複雑な手順を踏んでいたのね! でもPhotoshopでPDF化してAcrobatで結合したものでエラーが出なかったのだとしたら、私が突き当たった問題にはPhotoshopで作ったPDFとAcrobatとの相性以上の別の原因があったんでしょうね。ちなみに、クレーンさんのお使いのPhotoshopのバージョンは何ですか?

:Photoshop2020です。ただパソコンの具合のせいで、英語バージョンなので、それで四苦八苦してました(笑)。表記が全て英語なんですよ。

:全部英語かあ〜 そりゃ大変でしたね。あ、でもクレーンさん英語得意では……という問題じゃないか(笑)

:英語だとめちゃ見辛いです(笑)。その点、日本語はひらがな、カタカナ、漢字があって、すごく分かりやすい。

:PDFは便利な反面、謎も多いですよね。各自このページ数だからなんとかできたけど、これ以上の長さになったらまとめてIndesignで作るしかないような気がします。それを誰がやるかが問題だけど……。でも、PDFでのDTPに関して色々な知見が得られたのはよかったと思う。

:Indesign 試みはしたんですが今回は無理でした。覚えたら便利そうですよね。PDFの保存形式がすごく多様だってことはぼんやり知ってたけど、確かに今回の本づくりでほんの少し知識が増えました。

ーー今回コロナ禍ということもあり、全ての打ち合わせをオンライン上で実施し、一度もリアルで会うことをせずに本を完成させましたが、それについて思うことなどあれば。

:私は普段の仕事をリモートでやっているので、違和感はありませんでした。

:文字打ちがとにかく遅いので、チャットの時は間が悪くて恥ずかしかったです(笑)。

:一般的なことですが、文面だけの伝達であると、曲解したりされたりが生じることが多々あるように思えます。相手に自分の気持ちを文字のみでどのように的確に伝えるか、という文章力も試されたような気がします。実際に会って話したときの表情や声のトーンなどの機微をも伝えられるような文章が書けるとベストではないでしょうか。私はまだまだです……。

:もっと早い段階から、ちょこちょこ音声通話をすれば良かったかもね。一回しかしなかったから……声って大事。

:こういう形もアリではあるのですが、本当は直に会った方が、やはりいいでしょうね……。馴れ合いもよろしくないですが、ドライすぎるのも良くはない。

:「絵画文芸人」の話題など、最初メールで盛り上がってたのもあってさほど違和感はなかったですが、せっかくの部活なので、もうちょっと「意味なく集まって話す」的な時間も本当は欲しいですね。決めなくてはいけない、不可欠なトピック以外に、意外で面白いものがポーンと出るのはリアルで話す時の方が断然多いですし。

:ですね!

:お茶会的な時間ね。

:飲み会的な時間ね。

ーー絵画文芸部の活動全体について自由に語ってください。

:絵を描くのも小説を書くのも、正直苦しいことが90%(笑)。残りの10%がそれを陵駕するほど楽しいから続けてられるんですが、一人ではそこに行き着く前に投げ出してしまう。やっぱり誰かに期待されたり、切磋琢磨したりすることが大きな原動力になってると感じるので、ここに参加できたことは感謝しかありません。

:それぞれの特性を活かして活動していると思います。私は大したことができず恐縮な気分です。

:松沢さんと同じ意見で、こういう型で参加できたのが実にありがたかったです。こうやって、互いに刺激をしていくのが、もう何よりです。お礼を申し上げます。

:「絵も小説も書く」メンバーが5人も集まるのは大変貴重なことだと思うので、この活動を続けていけたらと思います。ブランド力は継続によって高まる!

:誰でもあることかもしれませんが、私は「絵」をメインに表に出して活動してきただけに、文章に関して「これでいいのかな?」というか、自分ではいいと思っているけれど「果たして広く発表して読んでくれる人はいるのか? 今の時代に合ったものなのか?」という迷いはありました。書くこと自体が好きなので、別に途中で終わってても発表しなくてもいいんじゃない? という気分すらあった。でも5人集まって読者が4人いるだけでも張り切りますね。集まったことでみなさんも、一人当たりの駆動力が増したんじゃないかと思っています。すでに小説家として商業出版の経験のある服部さんの「本作ろうよ!」という、「友達になろうよ!」的に爽やかなお誘いも、そっか本作っていいのか、と一気にその気になれたきっかけでした。本当にみなさんに感謝です!

:そっかー。私は中学生の頃からコピー本を作ってたからなあ。本作りって中毒になる要素があると思う。じゃなかったら、自費出版とか同人誌即売会とかPODにこれだけ需要があるわけはない!

:中毒性はわかるような。「文学フリマ」に初めて出て、あの熱気には感動しました。みんなこんなに書きたいし作りたいんだなと思って。

「部活」なので基本、楽しんでやりたいです。その上で、発表の機会になったり、お互い励まし合ったり褒め合ったりするのも大事な機能ですが、もうちょっと欲張って、お互いの創作に役立つグループでありサポートメンバーでありたいと私は思います。今回の本作りも、早めに原稿をあげて読み合って意見を言い合ったことで、全員初稿より良くなって、これが「部活」のいいところだなあと実感しました。

:お世話になりました!これからも、よろしくお願いします。

ーーお互いにリスペクトしあっていて、いい関係ですね〜。さて、そろそろ終了の時間が来たようです。最後に、今後の予定や抱負などをお聞かせください。

:前回も今回も展開で見せる系というか、小説としては真っ向勝負じゃなかったなあという自覚があります。情景・心理描写を丁寧に書いた正統派小説にも挑戦してみたいです。

:来年に個展があるので、しばらく小説執筆よりも絵を描く方を中心にします。ホテル暴風雨の新連載小説も来年秋頃になる予定です。あと、いつか、「白黒スイマーズ」の番外編も書きたいと思っています。色々とよろしくお願いします。

:現在、ホテル暴風雨で『オオカミになった羊』という長編を書いてますが(座談会当時。現在は完結していて、ホテル暴風雨で全編お読みいただけます)、これを仕上げること。その後は、新しいスタイルの絵本にチャレンジしようか、と考えています。

乞うご期待!

:長編の構想があるのでちゃんとまとめたいです。

:私はホテル暴風雨で連載している「赤ワシ探偵」の単行本を作ろうと思っています。

ーー今日は内容の濃いお話をありがとうございました。ちょうど宇宙船のメンテナンスも終わる頃ですので、私はこれで失礼してκ(kappa)星に帰ります。いつか皆さんも遊びに来てくださいね〜!

員:そっち!?

またね〜!

(おわり)

※8 PDF・・・ファイル保存の形式。印刷とほぼ同じ状態を表示できる。

(構成:服部奈々子)

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

↓座談会は今回の3回目で終わりです。1回目と2回目はこちらです↓

座談会(1):「イラストレータはいかにして小説を書いたか?」

座談会(2):「収録作品を作者が紹介:絵と文の関係、それぞれ」

『五つの色の物語』やPODについてはこちらの記事もご覧ください。
ホテル暴風雨 絵画文芸部の2冊目の本・イラストレーター5人による絵物語アンソロジー『五つの色の物語』が出ました。収録作品・amazon PODでオンデマンド出版した経緯・そもそもオンデマンドって何? などを紹介します。
収録された5編の小説は、こちらのページで冒頭試し読みができます。

<赤の物語>芳納珪 / 服部奈々子作 「塑界の森」

<黄の物語>浅羽容子作 「サスキ氏の黄色い一日」

<緑の物語>クレーン謙作 「緑色のあいつ」

<白の物語>松沢タカコ作 「Confession of Love」

<青の物語>斎藤雨梟作 「はじめの青い海」

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