【 わたし、捨て犬と出会う 】(3)絶版の復活

【 絶 版 の 復 活 】

絶版となった「わたし、捨て犬と出会う」をどうして復刊しようと思ったのか。
それは「全く新しい方法でこの本を復活できそうだ」と知ったからです。
絶版の復活。これはひとつの夢でした。

復活させる意味はあるのか。
「まだまだこの本が果たすべき役割は、いまの時代であるはずだ」
そう思いました。
「……なぜなら、いまだに犬猫の殺処分ゼロにはなっていないから」

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絶版。膨大な労力と情熱をこめて1冊の本をつくった者にとっては悲しい言葉です。
「わたし、捨て犬と出会う」を発行して数年。第2版はなく、そのまま絶版となりました。特に出版社からそのような通知があったわけではないです。数年が経過し、なんの連絡もなかったので「そうか絶版か」と判断したのです。

この本の第1版は3000冊。この数字は多いのか少ないのかあるいは妥当なのか、当時の私にはさっぱりわかりませんでしたし、そうしたことはすべて出版社まかせでした。出版社としては最初から「この本は初版のみ3000冊」という方針を立てていたのかもしれません。
それはともかく絶版に至るまでには「そこそこ売れた」(当時の出版社社長の言)らしいですし、ということはある程度の人の手には渡ったわけです。「まあそれで満足するしかない」と思ってあきらめることにしました。大方の著者の立場はそうなのだろうと思います。「出版社が対応してくれなければどうしようもない」というのが従来の常識でした。

これはもちろん、出版社に対しての不平不満を述べているわけではありません。仕方がないことだとわかっています。
今の時代は出版業界にとって大変苦しい時代です。単に本が売れないという理由だけでなく、昨今はあまりにもスマホから簡単に得られる雑多な情報が多すぎて、人々が疲弊しているような時代です。「本など読んでいるヒマはない」と思いこんでいる人々がなんと多いことか。そんな時代になんとか生き残っていくすべをあれこれ暗中画策している出版社に対して、著者の立場など弱いものです。出版社が絶版と決めた本を復刊させるなど、なにか特別な事情でもない限りまず不可能です。

しかしデジタル技術とインターネットの進化により、出版システムもこの18年間で大きく変化しました。出版社を通すことなく、個人で本を発行・販売できる新たな方法が確立されたのです。
たとえば電子出版。スマホやタブレットやパソコンで読む本や漫画が次々に発行されてます。これもまた時代の趨勢と言いますか、新しい出版のスタイルです。私も小説や漫画の電子書籍を10冊ほど持ってます。特に「これはもう古本屋さんで探しても、たぶん見つからない」と思われるような古い時代の漫画を電子出版で見つけた時は感動しました。画面で読む時も、好きなように拡大・縮小ができるので便利です。

【 K D P 】

そして出てきたKDP(キンドル・ダイレクトパブリッシング)。
風木さんが今年の1月29日にホテルだよりで「KDPペーパーバックの作りかた」を詳細に語ってますね。とてもわかりやすく解説しています。

KDPにアカウント登録。(無料)
   ↓
KDPが用意したテンプレートにそって本を制作。
   ↓
KDPのチェック。
   ↓
Amazonから発行。

つまりネットを利用してKDPのサービスを利用すれば、どこにいようともAmazonから自分のつくった本が発行できるようになったのです。私にとってなによりラッキーだったのは、風木さんがそれを実行したことです。KDPから「プロの絵本作り」(ペーパーバック/紙書籍)を発行し、それをアマゾンから販売開始したことでした。

これこそが18年前に「わたし、捨て犬と出会う」を発行した時点では想像もできなかった本の出版方法と言えます。なにしろ自分で書いてデザインした本を、出版社を通すことなくアマゾンで販売できるのです。しかもかかるコストは、実際に本が売れた時点でアマゾンに手数料を支払うだけです。
「すごいシステムが出てきたぞ」とワクワクしながら、すぐに風木さんと連絡をとって「プロの絵本作り」を注文しました。その本を手にして装幀の具合をあれこれ調べ、「わたし、捨て犬と出会う」もこの手段でぜひ紙の本にしたいと思ったわけです。

「電子本もいいけど、紙の本が好き。紙の本を自分でつくりたい」という人にとっては、これはまたとない「時代の朗報」だと私は思っています。私自身が、まさにそうだからです。

こうして「わたし、捨て犬と出会う」は復刊しました。今後は出版社にまかせることなく、自分でこの本を宣伝していかねばなりません。「いかにして本の検索にひっかかるような宣伝をしていくか」がキーポイントです。この仕事は発行して終りではなく、そこから新たなステージの戦いとなります。しかし時間をかけて粘り強く戦っていく気構えこそ大事だろうと思っています。「犬猫の殺処分ゼロ」の日がきっと来ることを願って。

完 


北野 玲(きたの れい)
画家・デザイナー・文筆家。岐阜中日文化センター講師。ホテル暴風雨1666号の住人。
毎週金曜日に「魔談」を連載中。主な著作に『わたし、捨て犬と出会う』『わたし、菜食と出会う』(愛育社)など。岐阜県加茂郡八百津町の山村で地域おこしに参画中。
公式HP http://reik85.wix.com/rei-1


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