『五つの色の物語』amazon POD出版記念 作者座談会(1)「イラストレーターはいかにして小説を書いたか?」
イラストレーター5名のグループ「ホテル暴風雨 絵画文芸部」による小説と絵のアンソロジー本『五つの色の物語』がamazon POD で出版されたことを記念する座談会です。「絵画文芸部」とは? POD出版までのいきさつ、など。絵と文の表現・本作り・POD出版などに興味のある方のご参考になれば幸いです。
ーーこんにちは。カッパです。今日の進行役を務めさせていただきます。
全員:(……なぜカッパ……?)
天の声:「文芸・カッパ」といえば芥川龍之介のこういうのか!?(注:絵は斎藤雨梟が5分で描いたてきとうな模写であり芥川先生とも本記事の内容ともほぼ無関係)
ーーあ、私のことは気にしないでください。たまたま時間ができたのでお手伝いさせていただいてます。えーと、いろいろお伺いしたいんですが、まず絵画文芸部とは、絵と小説を創作する部活動ということですよね? そもそもの成り立ちからご説明願えれば。
斎藤雨梟(絵画文芸部部長。以下「雨」):(状況にいち早く順応)絵画文芸部結成のきっかけは、「絵と文両方の表現をしたいけど、いわゆる『絵本』とはちょっと違うんだよね〜」と浅羽さんとよく話題にのせていて、そのうち「ホテル暴風雨」の新メンバーとして連載をお願いした服部さんも交えて「絵画文芸人にはどんな人がいるか?」などの情報交換をし出したことです。
服部奈々子(絵画文芸部副部長。小説家名は「芳納珪」。以下「服」):(雨梟さんにつられて順応。以下同様)そうそう、はじめはメールを送りあってたよね。私もそれに合わせてFacebookで古今東西の絵画文芸人を紹介したり。
浅羽容子(絵画文芸部会計部長。以下「浅」):「絵画文芸部」という名称と、雨梟さんが部長、服部さんが副部長、私が会計というのは、活動前から決まっていた(笑)
雨:「せっかくだから一緒に本を作って文学フリマ(※1)に出よう」と文フリ経験者・服部さんのお誘いに盛り上がり、やはりホテル暴風雨で連載してくださっていたクレーンさん、松沢さんにも声をかけたところOKだったので五人で活動を始めました。
松沢タカコ(絵画文芸部デザイン部長。以下「松」):私はホテル暴風雨展(※2)の飲み会の席で声掛けてもらいましたね。
雨:webマガジン「ホテル暴風雨」を始めた時から、すでに友人だった浅羽さんと松沢さんには是非何かお願いしたかったのです。理由は「絵もいいけど書く文章も何だか面白い」から。その時点では小説や物語創作にここまで興味を持っているとは考えず、イラストエッセイや絵がメインのショートストーリーになるかと思っていました。
浅:そうだったんだ! 私は依頼された時点で、がっつり連載小説かと思ってた〜
松:出来ることで、と思ったらこうなりました。
雨:連載の準備段階で出来上がったものを見せてもらったり話したりしているうちに、やはり書く文章はすごく面白いし、まだまだ目に見えないけれど内には創作文章への希求が溢れているよ! と感じて嬉しくなりました。この時点で「ホテル暴風雨 絵画文芸部」の下地ができていたと言えます。
たぶん全員がお互い「絵を描く人」と認識していて、文章をこんなに書くとは知らなかった。と思うと、絵画文芸人のあり方の少なくとも一つのパターンが見えてきますね。
ーーお互いやりとりするうちに、新たな可能性が引き出されたと。素晴らしいですねえ。ではみなさん、基本はイラストレーターなんですね。普段のお仕事や、イラストの作風、テーマなどについてお聞かせいただけますか?
服:私は雑誌やPR誌の挿絵が多いですね。木版画なので、個展等でオリジナル作品を販売することも。年に一回「版画とちいさなおはなし」と題して、短いストーリーをつけた版画の個展を開催していて、ライフワークのようになっています。
松:服部さんのショートストーリー、大好き〜! 私はイラストは冊子などのカットがメインです。仕事では修正がしやすくてわかりやすい、Illustrator(※3)で描いたものが需要があります。展示など自由に描ける場合は、手描きのペン画をスキャンしてPhotoshop(※4)で着彩のことが多いです。でもイラストレーターとしてはまだまだで・・・デザインの仕事で食べていけてるという感じです。
雨:仕事は、web・書籍・雑誌・ムック本・教科書など何でもやりますけれど、クッキリした線画を元にしたものが多いです。デジタルで着彩するのも修正するのも比較的楽で素早く対応できますし、私の場合「解説イラスト」が多いからというのもあります。展覧会などではアクリル絵具と岩絵具(日本画の絵具)を併用した絵をずっと描いています。あまり描けない時期が続いて不調だったんですが、こちらの作風に今後力を入れていきたいです。
浅:「絵を描く人」ではありますが、「イラストレーター」という自覚は、実はあまりありません。作風は、アクリルガッシュでこってり厚塗りです。テーマというか絵の傾向としては、自分の想像で描く場合がほとんどです。
クレーン謙(絵画文芸部宣伝部長。以下「ク」):もともと僕は漫画家のアシスタントをしていました。なので、いわゆる画家というイメージは自分自身にはなく、エンターテイメントの延長にある気がします。
最初の仕事が新聞だったので、しばらくは風刺画のような絵柄が多かったんですよ。
その後、様々と作風が増えてきましたけど、狙ってタッチを変えている訳ではなく、その時々の仕事によって変えてきた、という経緯があります。
ーーふむふむ。そのように絵の分野で活躍されているみなさんが、小説を書いてみようと思ったきっかけはなんだったんでしょう?
服:きっかけというか、小説を書くのは普通のことだと思っていて、人類はみんなほっとくと小説を書き始めるものだと思っています(笑)。中学生ぐらいまでは漫画家になりたいと思っていたんですよ。で、高校で意気揚々と漫研に入ったらめちゃくちゃうまい先輩がいて。漫画でプロになるのは無理だなと思って、それで文字で書き始めた感じです。ちょうど菊地秀行先生の『魔界都市』シリーズとかが流行っていて、美形キャラを書くなら文章の方がいいかな、とも。
ク:なんか服部さん、王道という感じしますね〜。こういう王道感が実は必要な気がします。僕は一時アングラに逃げた事もあるので(笑)。
服:王道ですよ、アニメ化して大ヒットしてめちゃめちゃ売れたいんですよ、私は!(笑)
ク:素晴らしいです! 売れたらおごってください(笑)。
浅:ドンペリで乾杯だ! もちろんおごりで。
雨:ドンペリ飲んだことない。その時にとっておこう。
浅:もちろん、ドンペリは、服部さんのギャラで。ホストクラブかキャバクラに行って飲みます。豪遊です。わはは。ドンペリ・ドンペリ・ドドンがドンペリ。
服:やばい、ドングリかと思ってた。なぜドングリ? って。
雨:服部さんてそうとう面白いよね……。
浅:では、ドングリで乾杯だ! もちろんおごりで。
服:縄文好きだからね。
浅:だったら、縄文土器で乾杯だ! もちろんおごりで。
服:今、土器作ってますー(今出前出ました!の口調で)
雨:土器作るって……マジか!?
浅:あ……誰か来た……。今、マスクをしたハニワが、縄文土器に入ったドングリ入りのドンペリを配達しにきました。お釣りもドングリでした。
服:土器にドンペリって、真面目に想像すると涙でそう。いや土器も本物ならお金に変えられないくらいの価値はあるんだけど。
浅:ハニワが配達してくれるジョーモンイーツもいいけど、やはりイケメンのハニワが接待してくれるホストクラブ「縄文」に行きたいよねぇ。早くコロナ終わらないかねぇ。飽きたねぇ、コロナ。まじ飽きた。ぱねぇ飽きた。ハニワの縄文土器でみんなで思い切りドンペりたいよねぇ。飛沫気にせずに。
服:奥様、ハニワは縄文ではございませんわよ。縄文といえば土偶!
浅:はっ! 騙された! これが噂の「縄文詐欺」か……。「オレだよ、オレ、縄文のハニワだよっ」って電話がかかってきて……。「お前かいっ……!?」なんて返答して。それが、土偶だったなんて……。
雨:ハニワは古墳時代だよね。そして土偶は女子だからホストクラブじゃないよね。
浅:土偶ギャルが接待してくれる行きつけのキャバクラ「縄文」は、本物だったのでとてもホッとしています。
ーー私はカッパですのでドンペリもドングリもいまいち触手が伸びないですねえ。
服:(突如豹変して)貴様ッ! いまッッ!! なんて言ったッッッ!!!
ーーえ……しょ、触手が……伸びない……
服:それを言うなら「食指が動かない」だろーがあああ!!! だいたいカッパにあるのは触手じゃなくて水かきだろっっっっ!!!!(暴れる)
雨:ああ、「校正さん」が降りてきちゃったんですね。すみません。ほらほら服部さん、赤ペンだよ。
服:(赤ペンを手にして落ち着く)
浅:では、服部さんが落ち着いたところで、みなさん 触手 拍手! ドングリ ドンペリで乾杯だ!
ーー誤用には厳しいんですね(ドキドキ)。気を取り直して続けます。えーと、松沢さんどうぞ。
松:「小説を書き始めたきっかけ」でしたよね。子供の頃から小説を読むのは好きでした。自分も書いてみたい願望はずっとあったのですが、誰からも求められていないことをコツコツ続ける根気はなくて、だいたいいつも途中で頓挫(笑)。それでもなんとか書き上げて賞に応募してみたこともありますが、箸にも棒にもかからず。昨年、この文芸部に誘っていただいて、必要とされた! って舞い上がって、書き始めたという感じです。
服:小説は書くのに時間かかるし、絵みたいに「ほら」ってパッと見せてわかってもらえるものじゃないから、孤独な戦いだよね。
ク:地道な作業ですわ(笑) まだ絵の方が華々しい。
浅:私の場合は、絵も文も同じくらい孤独で時間がかかる作業かも。でも、自分がそれがしたいのだから仕方がない。
松:私も作業としてはそれぞれ同じくらい大変。でも、さっき服部さんが「漫画家になりたかった」と言ったけど、実は私も中学生まで漫画家になりたかったクチ。やっぱり物語を作るということの原点はそこかも。
浅:松沢さんには、是非とも今後漫画を書いて欲しい!
雨:私も松沢さんの漫画見たいな。
松:そう言ってくれるのは嬉しいけど、自分には構成力がなさすぎるのを嫌ってほど実感してるのでもう無理……
服:この本の企画してる時にちょっと話した記憶あるけど、小説とか漫画とかいろんなのが載ってる本もいいよね。月刊誌みたいな。
雨:それも楽しそう。「絵と文」パートと「なんでもあり自由」パートをそれぞれ担当するとか。
服:この五人ならいろんなことができそう。
雨:私の場合、延々と作業してるのは孤独だけれど楽しくもあるので、別に人に見せなくてもいいやーと満足してしまいがち。でも、たまに展示をしたり仕事を褒められたり今回みたいに本を作ったりすると、この緊張感と達成感は絶対「良い作用」してるなという実感があります。一人だったらほったらかしてた案件でも仕上げるという即物的な意味もあるけど決してそれだけでなく。
服:受け手がいると、その人と世界を共有したと感じるよね。自分が作り出したものが自分だけのものじゃなくなったという。
雨:絵も文章も自分の個人史の中では相当古いものなので、創作を始めたきっかけというのは思い出せません。楽しみとして摂取している量ならば私は文章の方が多いです。ただ、文章でも数式でも論理式でも何でも、意味のあるものを視覚とか嗅覚とかが入り混じった感覚イメージで捉える傾向があって、中でも「視覚」がすごく大きいので、絵と文どちらが自分にとって根源的かというと絵じゃないかと感じます。絵が先にあって、そのイメージを捉えたくて書き始めたんだと思います。
服:数式も感覚イメージで捉えるってすごい。嗅覚もあるって、それって共感覚じゃない?
ク:視覚を重視しているのが斎藤さんの文章なんですね〜。僕にはそれがないので、尊敬します。
雨:共感覚というやつだと思います。わりとそこにはシャッターを下ろして生活してきたので、年とともに薄れてますけど、これぞというイメージは今でも、感覚の混ざり合った「塊」としか言いようのない形をしてます。
浅:超理系で共感覚……雨梟さんの脳味噌が八丁味噌以上に濃厚すぎる!
松:雨梟さんの文章ってすごく立体的だなあと思ってました。共感覚か〜!
雨:そのイメージで完結しすぎて(?)なかなか説得力ある説明ができないのです。八丁味噌が詰まっているのかも。。。
浅:超旨味成分つまってていいんじゃないか。
雨:浅羽さんはどう? 小説を書き始めたきっかけ。
浅:私も以前から文章を書くのは好きでした。「きっかけ」としては2001年に初めて自身のホームページを作るにあたり、連載小説を掲載させようと思ったからです。10回連載で、なんとか完結しました。「山や 谷や」というタイトルで、天才折り鶴師であり、折り鶴教室講師の幼稚園児、茶血ツツム君が主人公の変な小説です。
ク:何がきっかけとなるか分からんものですよね。案外、そういうアウトサイダー的なアプローチが独自の世界観を作っているのかも。
雨:独特の箱庭的世界というのか、そういう原型が最初からあったんでしょうか?浅羽さんの作品には、丹念にドールハウスとか模型とかを作り上げるようなイメージがあります。
浅:箱庭、ドールハウス――うーん、全く自分では意識していません。自分としてはもっと広い世界を描きたいのですが、経験不足・力不足なのだと思います。
松:変、こそ浅羽さんの強み!
雨:箱庭感がいいと思うんだけど。不思議世界が広大すぎると現実との接点が見えないので。ちょっと違うな、広がりがあるのはいいけど、その世界のフチみたいなヘリみたいなところが、もしかしてこの現実とつながっていて、こういう世界もどこかにあるのかも? と想像させる感じが、いいと思う。
浅:友人の子供の文学少年Tに「マジックリアリズム」と評してもらったので、そういうことなのかなぁ。ちなみに、T少年に教えてもらった文学用語「マジックリアリズム」は、その後ググりました。
松:いつか『百年の孤独』(※5)みたいな小説書いて〜!
浅:うぐっ……!……ま、まずい……話を変えなければ……。と、ところで、クレーンさんの文を書く「きっかけ」は何かしら?
ク:何でしょうね(笑)。やはり子供の頃は漫画家になりたかったのだと思います。
なので、絵だけだと、どこか欲求不満なのかも。一枚の完成した絵というよりは、どうしても物語とかを添えたくなってしまうのです。
雨:漫画というワンクッションを置くとクレーンさんの作風の秘密がわかる気がします。わりとワンテーマ、シンプル、寓話的という傾向のもあれば、重層的で複雑でちょっとぐちゃっとした傾向のもありますよね。私は後者のテイストのがどっちかというと好きです。『電気売りのエレン』もそうでした。今回の『緑色のあいつ』も、シンプルですが混沌感が残ってるあたりがいいと思います。
松:クレーンさんの書く・描くものはどれも「思い」が先行していて凄いなと思います。自分には圧倒的に足りないものという自覚があるので、うらやましいです。
<※注>
※1 文学フリマ・・・小説や詩など、「文学」に特化した同人誌即売会。
※2 ホテル暴風雨展・・・webマガジン「ホテル暴風雨」にゆかりのあるクリエイターが一堂に会する展覧会&トークショー。年一回のペースで開催している。
※3 Illustrator・・・Adobe社のソフト。線画の描画やレイアウトができる。
※4 Photoshop・・・同上。写真のレタッチや色塗りができる。
※5 『百年の孤独』・・・ノーベル賞作家ガブリエル・ガルシア・マルケスの長編小説で、マジックリアリズム文学の代表作とされる。焼酎ではない。
(構成:服部奈々子)
続く「座談会(2)」では、アンソロジー『五つの色の物語』に収録された小説の内容について話します。近日公開いたします、どうぞお楽しみに。
『五つの色の物語』やPODについてはこちらの記事もご覧ください。
収録された5編の小説は、こちらのページで冒頭試し読みができます。
<白の物語>松沢タカコ作 「Confession of Love」
どうぞよろしくお願いいたします。次回をお楽しみに!
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