あれだけ、サルヴァトーレか漁師たちと話し合っていたにもかかわらず、いざ、蓋を開けてみると「C」という結果でした。
つまり「釣られたのは町の海域なので、魚の所有権を町のものとする」ということです。
そして、Cと決まった途端、「この魚はどちらのものか」という話から、「この魚をどう分けるか」という話でみんな盛り上がっていました。
「サルヴァトーレに、漁師たちよ。町の代表としてこの魚をどうしていくべきか責任を持って考えていきたい。そして町の代表として漁師たちにあの魚を頼みたいのだが・・・。」
「町長ありがとうございます!あの大きな魚をさばいたり、切り出したりできるのは俺らだけです!この件、わしら漁師たちが取り仕切らせていただきます!任せてくだせえ。」
漁師たちは魚の所有権がなくても、実質魚を分配する主導権を握れるので、とても満足していました。
「町長待ってください!みんなもおかしいじゃないか!僕が釣った魚なのに、話し合うこともなく、勝手に投票を進めて!!こんなのあんまりだ!」
サルヴァトーレは尖った声で主張しました。
「聞きなさい、サルヴァトーレ。確かに君がきっかけを作ったことには間違いない。けれども他の人たちの意見も考慮してやらんといかんとは思わんかね。君も町の中で過ごしているのだから。とはいえ君も労ってやらんといかん。漁師たちよ、このサルヴァトーレに一番良い部分を渡してあげなさい。」
町長さんがそう言うと、漁師たちは一瞬渋い顔をしましたが、すぐに頷きました。
「お頭、どうせこんな大きな魚食べきれないですよ。余ったらこっそり隣町へ売りにいきましょうぜ。あれは高くつきますよ。」
若い漁師は、桟橋から繋がれ、浅瀬でぐったりしている大きな魚を指差して言いました。
「さぁさぁ、皆さん!こんな機会は滅多にありませんよ!せっかくですので、あの魚を囲んで記念撮影をしましょう!」
皆が魚の前に移動し始めましたが、 サヴァトーレとスミスはふてくされて、そのまま動かず、海を見ていました。
「そこのお綺麗な貴方!もう少し左に寄ってくださいな、それとそこの・・・はい、バッチリでございます!ささ、皆さん笑って。」
写真家はしきり始めると、みんなを笑わせながら写真を撮り始めました。
「何にもしてないやつらが魚を背にしてなんで笑えるんだ。」
サルヴァトーレは相変わらず納得いきませんでした。
「さぁさぁ、あとは漁師に任せて、皆のものは仕事に戻りなさい」
町長が声をあげると、町の人たちはぞろぞろと、職場に戻っていきました。
「こいつを運ぶ荷車が必要だな。お前たち、仕事を片付けて荷車を取りに戻るぞ。」
漁師たちも一斉に漁港へ向かい始めました。
サルヴァトーレは、すっかり気が抜けてぼーっと海を眺めていました。
1、2時間経った頃、
漁師たちが魚を運ぶための荷車や道具を持って、桟橋に向かい始めました。
しばらくすると、
「あれ!!!!どこいった?!!」
突然誰かが叫びました!
なんていうことでしょう。魚がいなくなっているではありませんか。
――――続く
生川真悟(なるかわしんご)
25歳の時絵本に魅せられて絵本を作り始める。たまたま訪れた会場でホテル暴風雨オーナーと出会い、オーナーとホテルが好きになりました。オーナーのようなジェントルマンな雰囲気で、子どもの心の扉を開けワクワクさせられるような児童文学作品を作り続けたい。茶碗蒸し(卵)と薬味好き。平成元年生まれ。野球守備位置はセカンド・ショート。出塁率は4割(ほとんどフォアボール)。ファール打ちとバントが得意。中川創作絵本教室所属、中川たか子を師に仰ぐ。
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