漁師達の大きな叫び声で、サルヴァトーレは目が覚めました。先ほどのやりとりで疲れていたようです。
辺りを見回すと、漁師達が何か騒いでいることぐらいしか、サルヴァトーレには分かりませんでした。
気になったサルヴァトーレが漁師に声をかけると、
「いねぇんだよ!あんだけ大きい魚がよ。消えちまったんだ!!!逃げちまったんだよ・・・。」
漁師がそう言うと一瞬、間がありましたが、サルヴァトーレはすぐに状況を把握しました。
「魚は逃げたわけじゃないよ。ひきずった跡と、ここに車輪みたいな跡がある。あんたたちが戻っている間に、誰かが先に盗んでいったに違いない。それに足跡もいくつもある。犯人は複数だ。」
サルヴァトーレは、少し興奮した様子でそう言うと、スミスに辺りを見回すように言いました。
スミスが空高く上がり、辺りを大きくグルグルと旋回すると、町から少し離れた対岸沿いの道を、猫たちが魚を引いて走っているのが見えました。
「何!!!猫だと!野郎ども盗人を許すな!みんなで捕まえるぞ!!!!」
漁師の頭がそういうと、漁師が、血相を変えて追いかけ始めました。
サルヴァトーレも後を追いました。
一方、対岸沿いを走る大きな荷車が、激しい勢いで進んでいました。
ゴトゴトゴト・・・・・
「あ、まずい。見つかったみたい!!カモメがこっちへ向かってきてる!」
小さい猫が大きい声で言いました。
「見つかっちまったか!!まぁ大丈夫だ!このまま進めばあいつらでは追いつけないからな!カモメは放っておけ!馬鹿な豚たちめ、馬鹿みたいに呑気に記念写真なんか撮ってるから気づかねえんだ!!!ここから少し先に船場がある!そこで魚を船に括り付けてずらかるぞ!!」
がっちりした猫が車輪の音に負けないぐらい大きな声で言いました。
漁師やサルヴァトーレも負けずと追いかけます。
あれだけ揉めて、最後はみんなで分けようとしていたのに、盗まれてしまっては元も子もありません。
「おかしらぁ!!休憩しようよ!疲れたし、お腹がすいてきたよ!」
太った猫が言いました。
「バカ言え、そんな暇はねぇよ!さっき盗ってきたものでも食っとけ太っちょ!足は止めるな!」
猫たちは下り坂をかけおりていました。
太った猫は、さっき町の途中で盗んだバナナを食べ始めました。
そして食べ終わると、そのまま皮を投げようとしましたが、振りかぶり過ぎて勢い余って転んでしまいました。
下り坂で、勢いがついたまま、荷車と魚は海に向かって投げ出されてしまいました。
「バッシャーン!!!」
水しぶきがものすごい高さまで上がりました。
「なんてこった!!!!!豚猫!!もう全部置いて逃げるぞ!!!」
砕けた荷車を置いて、猫たちは隣の町へ逃げていきました。
豚たちが、砕けた荷車のところに着いた時には、魚はすでに沖の方へ向かって泳いでいるところでした。
日が暮れ始め、今から戻って船で追いかけても捕まえられそうにもありません。
結局、誰もあの大きな魚を手にすることができませんでした。
(終わり)
生川真悟(なるかわしんご)
25歳の時絵本に魅せられて絵本を作り始める。たまたま訪れた会場でホテル暴風雨オーナーと出会い、オーナーとホテルが好きになりました。オーナーのようなジェントルマンな雰囲気で、子どもの心の扉を開けワクワクさせられるような児童文学作品を作り続けたい。茶碗蒸し(卵)と薬味好き。平成元年生まれ。野球守備位置はセカンド・ショート。出塁率は4割(ほとんどフォアボール)。ファール打ちとバントが得意。中川創作絵本教室所属、中川たか子を師に仰ぐ。
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