2017年6月10日(土)都内で行なわれた野島道場15周年記念イベントにおける公開インタビューです。(インタビュアー:山岸浩史 文まとめ:風木一人)
・・・・・・・・・・・・・・・※黒字は森信雄七段、赤字は山岸浩史インタビュアーです。
藤井聡太四段のこと
「いま皆さんが一番お聞きになりたいであろう質問をします。藤井聡太四段のことです。
ちょうど今日お昼ごろ24連勝目をあげ、もうすぐ25連勝目をかけた対局が始まります(叡王戦2回戦と3回戦)。
ずばり現時点の藤井聡太四段は全棋士の中で何番目に強いと思われますか?」
「3番目。1番と2番は誰?と思われるでしょうけれどこれは言えません。差しさわりがあるから。呑んでたら言えるけど(笑)
4月に関西将棋会館で藤井さんの免状授与式があったとき、ぼくはミーハーだから一緒に写真を撮ってもらいました。いい記念になりました。
今撮ってもらってもダメなんですね。勝ってからでは価値がない。当時はまだこれほど注目されていなかったけれど、なんとなく撮っといた方がいいかな思うて。正解でした」
「藤井聡太四段の才能はなんですか?」
「うーん、印象を一口で言えば、辛(から)い。勝負に辛いですね。
あの年齢で辛いのには驚きました。ぼくは甘いので有名で、必勝になったら喜んですぐ逆転負けするんですけど、藤井さんはそういうのないです。
難しい流れで逆転しそうなところで、初めから受けを考えているのが恐ろしいですね。ちょっとくらい失敗してもいいように、2段構え3段構えで負けない筋を常に用意している。一手ばったりにならない。ぼくだったら一発で終わるところ終わらない。どこが違うのかなあ?(笑)
寄せしくじったり、ミスもけっこうしているんですよ。でもミスをミスにさせない。その精神面がすごい。あの年齢で。不思議です。
プロになる前、小学生のときから詰め将棋はプロも含めて一番で、読みの深さがものすごい。そこから来る自信があるんでしょう。
今日の将棋(梶浦宏孝四段戦)も、負けそうなところあったと思うんです。でもそういうところで、最善手がわからない難しい局面を作ってくるんですね。決してはっきりした負けにしない。大山先生とか升田先生(注1)のような感覚を持っている気がします。直感なのかどうか、ちょっとわからないですけど。
ぼくの弟子も当たっていて、澤田君(澤田真吾六段)は惜しい将棋でした(6月2日の棋王戦)。対局予定を見てストッパーになるなら澤田君しかいないと思っていたし、本人も勝ちますよ!と言ってたんです。
実際勝ったなあと思った瞬間ネットが切れてしまって、しばらくしてつながったら負けていました。煙幕にまかれたのかと(笑)。相当がっかりしました」
「阪口悟五段との対局(6月7日)は本当に負けていましたよね?」
「あれも見ていました。有段者研究会があって、これはさすがに終わりました、藤井さん負けです、と言ったとたんに歩をついた。あれー!これ頓死です。一瞬の逆転でした。
角出はピッタリで、早見えの阪口君が得意とするような手なんですよ。なのに見落とした。不思議です。
もう負けだなあと思ったときにも二の矢を用意しているのが藤井さんの強さです」
(※注1 大山康晴15世名人と升田幸三実力制第四代名人 ともに昭和を代表する名棋士)
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